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PMIの最初の100日間:買収後にやるべきことリスト
PMI・統合

PMIの最初の100日間:買収後にやるべきことリスト

12分

PMIとは何か

PMI(Post Merger Integration)は、M&A成立後に行う経営統合プロセスのことです。契約書にサインした瞬間から始まる、M&Aの「本番」。

買収はゴールではなくスタートラインです。どれだけ良い案件を安く買えても、PMIに失敗すれば投資は回収できません。実際、M&Aが「失敗」と評価される案件の大半は、買収判断ではなくPMIの失敗に起因しています。

最初の100日間は特に重要。この期間に打つ手を間違えると、キーマンの離職、顧客の離反、組織の混乱が連鎖的に発生し、立て直しが困難になります。

Day 1(クロージング当日)にやること

クロージング日は、買収が公になる最初の日です。この日の対応で、従業員や取引先の第一印象が決まります。

従業員への発表

朝一番で全体説明会を開催します。伝えるべきことは明確です。

  • 買収の事実と目的: なぜこのM&Aを行ったのか
  • 雇用の継続: 全員の雇用を維持するかどうか、条件変更の有無
  • 当面の方針: 「しばらくは大きな変更を加えない」のか、「すぐに変えることがある」のか
  • 質問の受付窓口: 不安や疑問をどこに相談すればいいか

ここで最もやってはいけないのが、「詳細は追って連絡します」で済ませること。情報の空白は憶測を生み、憶測は不安を増幅させます。決まっていないことは「まだ決まっていない」と正直に伝え、「いつまでに決める」というスケジュールを示すべきです。

取引先・顧客への連絡

主要取引先にはDay 1中に直接連絡を入れます。メールではなく電話が望ましい。伝える内容は以下の3点です。

  • 経営権が移転した事実
  • 取引条件に変更がないこと(変更がある場合はその内容)
  • 窓口担当者の変更有無

特に売上上位10社への連絡は最優先。取引先が「ニュースで知った」という状況は絶対に避けてください。

金融機関への報告

メインバンクには事前に情報を共有しているのが通常ですが、Day 1に正式な報告を行います。融資条件に「経営権の変更時には報告義務あり」と定められている場合がほとんどです。

最初の2週間:現状把握と信頼構築

全従業員との個別面談

最初の2週間で、可能な限りすべての従業員と1対1の面談を実施します。10人の会社なら全員、50人の会社なら少なくとも管理職とキーマンは必須。

面談の目的は「聞くこと」です。

  • 現在の業務内容と課題
  • 組織への不満や改善要望
  • 今回の買収に対する率直な感想
  • 今後のキャリアへの不安

この段階で新しい方針を押し付けるのは逆効果です。まず相手の話を聞き、「自分の意見は尊重される」という実感を持ってもらうことが、信頼構築の第一歩になります。

業務プロセスの観察

最初の2週間は、業務のやり方を変えず、ひたすら観察する期間と位置づけます。

  • 日常業務のフロー(受注→製造→出荷→請求)
  • 暗黙のルールや属人的な判断基準
  • 使っている基幹システム・ツール
  • 部門間のコミュニケーション経路

外から見ると非効率に見えても、現場にはそうする理由がある。拙速な改善は現場の反発を招きます。

最初の30日間:PMI計画の策定

統合方針の決定

PMIには大きく3つのアプローチがあります。

アプローチ内容適用場面
吸収統合買い手のやり方に合わせる同業種の買収で買い手の仕組みが優れている場合
並存当面は両社の仕組みを併存させる異業種の買収、文化の違いが大きい場合
ベストプラクティス統合両社の良い部分を組み合わせる対等な規模の統合

中小企業のM&Aでは「並存→段階的に統合」のアプローチが最もリスクが低い。初日から自社のルールを押し付けると、「乗っ取られた」という印象を持たれ、組織が壊れます。

100日プランの作成

具体的なタスクを4領域に分けて計画します。

1. 組織・人事

  • 組織図の確定(変更する場合は30日以内に発表)
  • 給与体系の統一検討(統一するなら「低い方に合わせる」は厳禁)
  • 就業規則の統一(6カ月以内を目標)
  • 人事評価制度の統一(1年以内を目標)

2. 業務・システム

  • 会計ソフトの統一(決算期に合わせて実施)
  • 受発注システムの統合検討
  • メール・チャットツールの統一(早めに実施。コミュニケーション基盤は早期統一が有効)
  • 社内規定・マニュアルの統合

3. 営業・顧客

  • 顧客データベースの統合
  • クロスセル機会の特定
  • 営業プロセスの標準化(3〜6カ月)
  • ブランド・社名の取り扱い方針

4. 財務・管理

  • 月次決算体制の統一
  • 経費精算ルールの統一
  • 銀行口座・決済方法の整理
  • 保険の見直し

30〜100日間:実行と軌道修正

「クイックウィン」を狙う

100日間で全てを統合するのは不可能です。代わりに、**短期間で目に見える成果(クイックウィン)**を出すことに集中します。

具体的には以下のような施策です。

  • 両社の顧客リストを突き合わせ、クロスセルの商談を3件設定する
  • 重複している外注先を整理し、月額20万円のコスト削減を実現する
  • 統合後の新組織図を発表し、昇進人事を1〜2名実施する

小さな成功体験の積み重ねが、「この買収は正しかった」という組織全体の確信につながります。

KPIのモニタリング

PMIの進捗を測るKPIを設定し、週次でモニタリングします。

  • 離職率: 買収後3カ月の離職率が10%を超えたら危険信号
  • 顧客離反率: 主要顧客の取引継続状況
  • 売上推移: 買収前対比での売上変動
  • 従業員満足度: 簡易サーベイを月次で実施
  • PMIタスクの進捗率: 計画に対する完了率

KPIが悪化傾向にある場合は、計画を修正する勇気が必要です。計画に固執するより、現場の実態に合わせた柔軟な対応が求められます。

中小企業PMIで特に注意すべきこと

大企業のPMIとは異なり、中小企業には固有の論点があります。

前オーナーとの関係: 引継ぎ期間中の前オーナーの立ち位置を明確にする。「元社長」が社内にいると、従業員が新旧どちらの指示に従うべきか迷う。権限移譲のスケジュールを明文化しておく

属人的な業務の可視化: 前オーナーの頭の中にしかない顧客情報、仕入先との口約束、暗黙の業務フローを文書化する。これが遅れると、引継ぎ期間終了後に「誰も知らない」業務が発生する

地域コミュニティとの関係: 地方の中小企業では、地元の商工会議所、自治会、業界団体との関係が事業運営に影響する場合がある。前オーナーの紹介で、新オーナーがこれらのコミュニティに顔を出す機会を早めに設ける

まとめ

PMIの最初の100日間は、買収の成否を決定づける期間です。Day 1の従業員・取引先への迅速な情報発信、最初の2週間での個別面談と現状把握、30日以内の統合計画策定、そして100日間でのクイックウィンの実現。この流れを計画的に実行できるかどうかが、M&Aの投資リターンを左右します。

完璧な計画を作ることより、走りながら修正する柔軟さが大切です。最初の100日間を乗り切れば、統合の土台は固まります。

よくある質問

PMIの失敗率はどのくらいですか?
調査によって数字は異なりますが、M&Aの6〜7割が期待したシナジーを実現できていないとされています。その主因はPMIの計画不足・実行不足です。買収前のDD段階からPMI計画を策定し始めるのが成功企業の共通点です。
PMI専任の担当者は必要ですか?
中小企業のM&Aでは専任チームを組めないケースが大半ですが、最低でも責任者1名は明確にすべきです。兼任でも構いませんが、『PMIは誰の仕事でもない』状態になると、統合作業が放置され、従業員の不安が増大します。
最初の100日間で最も優先すべきことは何ですか?
従業員とのコミュニケーションです。買収された側の従業員は、雇用条件、上司の変更、仕事の進め方の変化など、強い不安を抱えています。Day 1の全体説明会と、最初の2週間以内の個別面談が、離職防止と信頼構築の土台になります。
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