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M&A契約書の基本構成:SPA・LOI・NDAの違いと注意点
法務・税務

M&A契約書の基本構成:SPA・LOI・NDAの違いと注意点

10分

M&Aの契約書は3段階で登場する

M&Aの交渉プロセスでは、段階ごとに異なる契約書が必要になります。主要なものは3つ。

  1. NDA(秘密保持契約書) ― 交渉開始時
  2. LOI(基本合意書) ― 条件の大枠合意時
  3. SPA(株式譲渡契約書) ― 最終契約時

それぞれの役割はまったく異なるため、混同すると交渉上のリスクを抱えることになります。順を追って見ていきましょう。

NDA(Non-Disclosure Agreement / 秘密保持契約書)

役割

NDAは、M&Aの検討に必要な情報を開示するにあたり、その情報の取り扱いルールを定める契約です。M&Aプロセスの最初に締結します。

売り手にとって、自社が売りに出ていること自体が極めてセンシティブな情報。従業員や取引先に漏れれば、事業に深刻な影響が出ます。NDAはその情報漏洩リスクを法的に担保するための契約書です。

主な記載事項

  • 秘密情報の定義: 何が秘密情報に該当するか(財務情報、顧客情報、技術情報、M&A検討の事実そのもの)
  • 目的外使用の禁止: 開示された情報をM&A検討以外の目的で使用しない
  • 第三者開示の制限: 弁護士・会計士等の専門家を除き、第三者に開示しない
  • 有効期間: 通常2〜3年
  • 違反時の措置: 損害賠償、差止請求

実務上の注意点

NDAで見落とされがちなのが、競合他社への情報漏洩リスクです。買い手が同業他社の場合、NDAを締結していても、得た情報を自社の事業判断に無意識に活用する可能性は排除できません。

売り手としては、NDA締結前に「ノンネームシート」で概要だけを開示し、具体的な社名・財務データはNDA締結後に開示するのが鉄則です。

LOI(Letter of Intent / 基本合意書)

役割

LOIは、売り手と買い手がM&Aの基本条件について大枠で合意したことを確認する書面です。デューデリジェンス(DD)に進む前に締結するのが一般的。

LOIの主な目的は、「この条件で進めるなら、次のステップ(DD)に入りましょう」という双方の意思確認です。

主な記載事項

項目内容法的拘束力
取引スキーム株式譲渡 or 事業譲渡なし(通常)
譲渡価格(概算)金額またはレンジなし(通常)
デューデリジェンスの実施範囲・期間・費用負担なし(通常)
スケジュールクロージング目標日なし(通常)
独占交渉権一定期間、他の買い手候補と交渉しないあり
秘密保持義務NDAの再確認あり
善意交渉義務誠実に交渉を継続するあり

実務上の注意点

独占交渉権の期間設定は、LOI交渉で最も揉めるポイントの一つです。

買い手は「3〜6カ月の独占」を求めるのが通常。売り手にとっては、独占期間中に交渉が決裂した場合、その期間が丸ごと無駄になります。独占期間は2〜3カ月程度に抑え、延長条件を明記するのが売り手側の基本戦略です。

もう一つ重要なのが、LOIに記載した価格がそのまま最終価格にならない点。DDの結果、リスクが発見されれば価格は下方修正されます。「LOIで1億と書いたのだから1億で買ってほしい」という主張は通用しません。LOIの価格条項はnon-bindingであることを、売り手は正しく理解しておく必要があります。

SPA(Stock Purchase Agreement / 株式譲渡契約書)

役割

SPAは、M&Aにおける最終契約書です。DDが完了し、最終的な取引条件が確定した段階で締結します。SPAは全条項が法的拘束力を持つ、M&Aプロセスで最も重要な契約書です。

主な記載事項

取引条件

  • 譲渡株式数と譲渡価格
  • 支払方法・支払時期
  • クロージング日と前提条件

表明保証(Representations and Warranties)

  • 売り手が「会社の状態について事実と異なる点はない」と保証する条項
  • 財務諸表の正確性、未開示の訴訟がないこと、税務申告が適正であること等

補償条項(Indemnification)

  • 表明保証に違反した場合の損害賠償の範囲と上限
  • 請求期間(通常1〜3年)
  • 補償の上限額(譲渡価格の10〜30%が相場)

クロージング前提条件

  • DD結果に重大な問題がないこと
  • 許認可の承継が完了していること
  • キーマンの残留合意が得られていること

競業避止義務

  • 売り手が同一事業を一定期間行わないことの約束
  • 期間は2〜5年、地域は日本国内全域とするのが一般的

実務上の注意点

SPAで最も争点になるのが表明保証の範囲と補償条項です。

売り手は表明保証の範囲を狭く、補償上限を低くしたい。買い手はその逆。この交渉は弁護士同士のやりとりになることが多く、中小企業のオーナーが一人で対応するのは困難です。

よくある失敗として、売り手が「表明保証にサインしたが、内容を十分に理解していなかった」というケースがあります。表明保証違反による損害賠償は、譲渡後に数千万円の請求を受ける可能性もあるため、条文を一つひとつ確認する姿勢が不可欠です。

3つの契約書の時系列

段階契約書所要期間
案件検討開始NDA締結1〜2週間
トップ面談後LOI締結2〜4週間
DD完了後SPA締結4〜8週間

全体のスケジュールは案件によりますが、NDA締結からクロージングまで3〜6カ月が一般的。大型案件や複雑なスキームの場合は1年以上かかることもあります。

まとめ

M&Aの契約書は、NDA・LOI・SPAの3段階で構成されます。NDAは情報管理、LOIは条件の大枠合意、SPAは最終的な取引条件の確定。それぞれ法的拘束力の範囲が異なるため、各契約書がどの条項にbinding/non-bindingを設定しているかを正確に把握することが交渉の前提です。

特にSPAの表明保証と補償条項は、譲渡後の金銭的リスクに直結します。コスト削減のために弁護士費用を惜しむのは、結果的に最も高くつく判断になりかねません。

よくある質問

LOI(基本合意書)に法的拘束力はありますか?
原則として、LOIの大部分は法的拘束力を持たない(non-binding)とするのが一般的です。ただし、独占交渉権や秘密保持義務など、一部の条項には法的拘束力を持たせるのが通常です。LOI締結時に、どの条項がbindingでどの条項がnon-bindingかを明確に記載することが重要です。
NDAはどちらが先に提示するものですか?
通常は買い手側(または仲介会社)が用意します。売り手の情報を開示する前に締結するため、情報を受け取る側がNDAを準備するのが実務上の慣行です。マッチングプラットフォーム経由の場合は、プラットフォーム所定のNDAが用意されていることが多いです。
弁護士費用はどのくらいかかりますか?
NDAの作成・レビューは5〜15万円、LOIは10〜30万円、SPAは50〜200万円が相場です。中小企業のM&Aでは、SPA以外は仲介会社のテンプレートを使うケースも多く、弁護士費用を抑えられる場合があります。ただしSPAだけは必ず弁護士のチェックを入れるべきです。
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