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株式譲渡と事業譲渡の違い:メリット・デメリットを比較
法務・税務

株式譲渡と事業譲渡の違い:メリット・デメリットを比較

11分

2つのスキームの根本的な違い

M&Aのスキームを大きく分けると、「株式譲渡」と「事業譲渡」の2種類があります。会社分割や合併など他のスキームもありますが、中小企業のM&Aでは実務上この2つがほぼすべてを占めています。

両者の違いを一言でいえば、**株式譲渡は「会社の持ち主が変わる」、事業譲渡は「会社の中身を売買する」**です。この違いが、手続き・税務・リスク管理のあらゆる面に波及します。

株式譲渡とは

株式譲渡は、売り手オーナーが保有する株式を買い手に譲渡するスキームです。会社の法人格はそのまま存続し、社名・許認可・契約関係・従業員の雇用もすべて引き継がれます。

メリット

手続きがシンプル

株主名簿の書き換えと、場合によっては役員変更の登記で完了します。取引先や従業員との個別契約を巻き直す必要がない。これが中小企業で株式譲渡が好まれる最大の理由です。

許認可がそのまま使える

飲食業の営業許可、建設業許可、介護事業の指定など、取得に時間がかかる許認可をそのまま承継できます。事業譲渡では原則として許認可の再取得が必要であり、これだけで数カ月かかることもあります。

売り手個人の税率が低い

個人オーナーが株式を譲渡した場合、分離課税で約20.315%。事業譲渡の総合課税(最大約55.945%)と比較して圧倒的に有利です。

デメリット

簿外債務を引き継ぐリスク

株式譲渡では会社そのものを引き取るため、帳簿に載っていない債務(未払残業代、訴訟リスク、環境汚染の原状回復義務など)も自動的に承継されます。DDで発見できなかった簿外債務が後から顕在化するケースは決して少なくありません。

不要な資産・事業も含まれる

会社全体を取得するため、買い手にとって不要な資産や事業部門も一緒についてきます。遊休不動産、使っていない子会社の株式、採算の取れない事業ラインなど。これらは買収後に整理する必要があり、追加のコストと手間が発生します。

のれん償却ができない

税務上、株式の取得原価にプレミアム(のれん相当額)が含まれていても、それを損金算入することはできません。買い手にとって節税メリットがないのは大きなデメリットです。

事業譲渡とは

事業譲渡は、会社が営む事業の全部または一部を、資産・負債ごと他の会社に売却するスキームです。売買対象を個別に指定するため、買い手は「欲しいものだけ」を選んで取得できます。

メリット

リスクの遮断

最大のメリットは、簿外債務を引き継がないことです。契約書に列挙した資産・負債のみが承継対象となるため、未開示の債務が買い手に移転することは原則としてありません。

必要な資産だけを取得できる

複数事業を営む会社から、特定の事業部門だけを買い取ることが可能。不要な事業や資産は引き取らなくて済みます。

のれん償却が可能

取得したのれん(営業権)は税務上5年間で均等償却でき、損金に算入されます。のれんが大きい案件では、この節税効果だけで数百万〜数千万円に達する場合もあります。

デメリット

手続きが煩雑

事業譲渡の最大の難点は、契約関係の個別承継です。取引先との売買契約、賃貸借契約、リース契約、雇用契約――これらをすべて個別に移転する必要があります。

取引先が100社あれば、100社すべてに同意を取り付ける作業が発生。実務上、ここがボトルネックになるケースが多い。

許認可の再取得が必要

事業譲渡では許認可は承継されないため、買い手が改めて取得する必要があります。建設業許可の新規取得には数カ月、介護事業の指定は申請時期が限定されていることもあり、スケジュールに大きな影響が出ます。

従業員の転籍手続き

株式譲渡では雇用契約がそのまま承継されますが、事業譲渡では従業員一人ひとりの同意が必要です。買い手との新しい雇用契約を締結し直すことになるため、雇用条件(給与・退職金・有給残日数)の調整が避けられません。

消費税が発生する

棚卸資産、設備、のれんなどの課税資産には消費税10%が課されます。のれん5,000万円なら消費税だけで500万円。この負担は無視できません。

比較一覧表

比較項目株式譲渡事業譲渡
取引の対象株式(会社全体)事業の全部または一部
法人格存続変更なし(売り手法人は存続)
契約関係の承継自動的に承継個別に同意が必要
許認可そのまま承継再取得が必要
従業員雇用継続転籍手続きが必要
簿外債務リスクあり原則なし
売り手(個人)の税率約20.315%最大約55.945%
買い手ののれん償却不可5年均等償却
消費税なし一部資産に課税
手続きの簡便さシンプル煩雑

どちらを選ぶべきか:判断基準

以下のフローで判断するのが実務的です。

株式譲渡を選ぶべきケース

  • 会社全体を譲渡する場合
  • 許認可の承継が重要な業種(建設、飲食、介護等)
  • 取引先・従業員との契約関係が多い
  • 売り手が個人オーナーで税負担を抑えたい

事業譲渡を選ぶべきケース

  • 会社の一部の事業のみを売買する場合
  • 簿外債務のリスクが高い(DD で十分な調査ができない等)
  • 買い手がのれん償却による節税を重視する
  • 売り手法人が譲渡後も別事業を継続する

実際には、売り手の税務メリットと買い手のリスク管理・節税メリットが対立することが多く、双方の税理士を交えた検討が不可欠です。「どちらが得か」ではなく、「取引全体として最適なスキームは何か」という視点で判断してください。

まとめ

株式譲渡は手続きのシンプルさと売り手の税務メリットが強み。事業譲渡はリスク遮断と買い手の節税メリットが強み。どちらにも明確なトレードオフがあり、案件の特性によって最適解は変わります。

スキーム選択はM&A全体の成否を左右する最初の重要判断です。感覚ではなく、税務シミュレーションとリスク分析に基づいて選択しましょう。

よくある質問

中小企業のM&Aではどちらのスキームが多いですか?
株式譲渡が圧倒的に多いです。中小企業庁の調査では7〜8割が株式譲渡を採用しています。手続きがシンプルで、従業員・取引先との契約関係をそのまま引き継げるのが主な理由です。
一部の事業だけを買いたい場合はどちらを選びますか?
事業譲渡を選択します。株式譲渡は会社全体の売買となるため、特定の事業部門や店舗のみを切り出して購入したい場合は、事業譲渡が適しています。なお、会社分割を使って対象事業を新設法人に移したうえで株式譲渡する方法もあります。
簿外債務のリスクが怖い場合はどちらが安全ですか?
事業譲渡が安全です。事業譲渡では契約書に記載した資産・負債のみを承継するため、未開示の債務を引き継ぐリスクを原理的に排除できます。ただし、事業譲渡でも詐害行為取消権や法人格否認の法理が適用される場合があるため、完全にリスクフリーではありません。
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