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中小企業の値段の決め方:年買法とその限界
企業価値評価

中小企業の値段の決め方:年買法とその限界

9分

年買法とは何か

中小企業のM&Aで最もよく使われる評価方法が「年買法」です。計算式は明快。

企業価値 = 時価純資産 + 営業権(実質利益 × 年数)

「今持っている資産」に「将来の稼ぎの何年分か」を上乗せする。直感的にわかりやすく、売り手にも買い手にも説明しやすい点が、この手法が広く使われている最大の理由です。

M&A仲介会社の大半がこの手法をベースにしており、BATONZやTRANBIといったプラットフォーム上の案件でも、年買法で算出された価格を目にする機会は多いでしょう。

計算の具体例

年商1.5億円、従業員10名の製造業を例にとります。

ステップ1:時価純資産の算出

項目帳簿価額時価修正
土地3,000万円4,500万円(含み益+1,500万円)
建物・設備2,000万円1,500万円(経年劣化)
売掛金1,800万円1,600万円(回収不能200万円を除外)
在庫1,200万円900万円(滞留在庫300万円を除外)
負債合計▲4,000万円▲4,000万円
時価純資産4,500万円

帳簿上の純資産は4,000万円でしたが、土地の含み益や不良資産の除外を反映すると4,500万円に修正されます。

ステップ2:実質利益の算出

ここでいう「実質利益」は、税引後利益をそのまま使うわけではありません。中小企業特有の調整が入ります。

  • 税引後利益:800万円
  • オーナー報酬の過大分:+500万円(役員報酬2,000万円のうち、後任に必要なのは1,500万円)
  • 役員保険料:+120万円(節税目的の保険を解約前提)
  • 家族従業員の給与:+200万円(実態として労務提供なし)
  • 実質利益:1,620万円

ステップ3:営業権の計算

営業権=実質利益1,620万円 × 3年 = 4,860万円

企業価値=4,500万円+4,860万円=9,360万円

これが年買法による評価額です。

「何年」にするかで価格は激変する

年買法の最大の変数は、営業権の「年数」をどう設定するかです。

上記の例で年数を変えると、結果はこう変わります。

営業権の年数営業権企業価値
1年1,620万円6,120万円
3年4,860万円9,360万円
5年8,100万円1億2,600万円

1年と5年で6,480万円もの差が生まれます。だからこそ、年数の根拠が重要になる。

実務上、年数を決める際に考慮されるのは以下の要素です。

  • 収益の安定性: 過去5年間の利益が安定しているか
  • 顧客基盤: リピート率が高く、顧客の離脱リスクが低いか
  • 属人性: オーナー個人の能力や人脈への依存度
  • 業界の将来性: 市場が縮小傾向にないか
  • 競合環境: 参入障壁の高さ

安定的なストック型ビジネスなら4〜5年、オーナーの人脈に依存した営業主体の会社なら1〜2年。こうした判断が、最終的な価格に直結します。

年買法の限界

年買法は使いやすい反面、構造的な問題を抱えています。

限界1:将来の成長が反映されない

年買法は過去の実績ベースで計算するため、「来年から大型契約が始まる」「新サービスが立ち上がる」といった将来の成長は価格に反映されません。成長フェーズにある会社は過小評価されやすい。

限界2:年数の根拠が曖昧になりがち

「この会社は3年が妥当です」という判断に、客観的な基準はありません。仲介会社によって推奨する年数が異なることも珍しくなく、売り手側のアドバイザーは年数を多めに、買い手側は少なめに提示するインセンティブが働きます。

限界3:赤字企業を評価できない

営業権がマイナスになる赤字企業には適用が難しく、「時価純資産を割り込む価格」でしか算出できません。しかし、赤字でも許認可・顧客リスト・技術・人材に価値がある企業は存在します。

限界4:業種特性を反映しにくい

SaaS事業のようにARRベースで評価すべき業態と、飲食店のような日銭ビジネスでは、本来のバリュエーションロジックが異なります。年買法はそうした業種固有の評価軸を取りこぼしがちです。

年買法を補完する方法

年買法の限界を認識したうえで、以下の補完手法を組み合わせるのが実務的な対応策です。

  • DCF法との併用: 将来の成長を織り込みたい場合に有効。年買法で出した結果とDCF法の結果を比較し、レンジで提示する
  • マルチプル法でのクロスチェック: 同業種の取引事例やEBITDA倍率で、年買法の結果が「相場から外れていないか」を確認する
  • 定性要素の明示: ブランド力、特許、独占契約、従業員の技術力など、数値化しにくい価値を定性的に列挙し、交渉材料にする

まとめ

年買法は中小企業M&Aの「共通言語」として機能している手法です。計算がシンプルで、売り手・買い手双方が理解しやすいという強みがあります。

ただし、その簡便さゆえに限界も明確です。年数の設定に恣意性が入り込む余地があり、成長企業や赤字企業の評価には不向き。年買法で出した数字を「唯一の正解」と考えるのではなく、他の評価手法や定性情報と組み合わせて、妥当な価格レンジを見極めることが重要です。

よくある質問

年買法の『年数』は何年が一般的ですか?
2〜5年が一般的です。業績が安定している企業は3〜5年、属人性が高い企業や業績にブレがある企業は1〜2年で計算されるケースが多いです。業種や収益の安定度によって変わります。
年買法で算出した価格はそのまま売買価格になりますか?
なりません。年買法はあくまで交渉のスタート地点です。実際の売買価格は、買い手との交渉、シナジー効果の見込み、競合入札の有無、売り手の売却意欲などによって上下します。
赤字企業でも年買法は使えますか?
営業権がゼロまたはマイナスになるため、純粋な年買法だけでは適切な評価が出ません。赤字企業の場合は、時価純資産のみでの評価や、黒字化の見込みを加味した修正DCF法を併用するのが一般的です。
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