MAメディア
親族内承継と第三者承継の違いと判断基準
事業承継

親族内承継と第三者承継の違いと判断基準

9分

「親族に継がせるのが当然」という時代は終わった

かつて中小企業の事業承継といえば、息子や娘に引き継ぐのが当たり前でした。2000年頃には事業承継の約9割が親族内承継だったとされています。

しかし2025年現在、その比率は約35%まで低下しました。代わりに伸びているのが第三者承継、つまりM&Aによる事業承継です。背景には少子化による後継者候補の減少、子どもの職業選択の多様化、そしてM&Aに対する心理的ハードルの低下があります。

親族内承継と第三者承継、どちらが正解かは会社の状況によって異なります。感情的に「家族に継がせたい」と考える前に、両方の特徴を冷静に比較してみましょう。

コスト構造がまったく違う

親族内承継の場合

株式を生前贈与するか、相続で移転するかの二択が基本です。どちらを選んでも税負担が発生します。

自社株の評価額が1億円の場合、贈与税は最大で約4,800万円。相続税は他の遺産との合算で計算されますが、数千万円規模の負担になることが多い。事業承継税制の特例措置を使えば猶予を受けられますが、適用には厳格な要件を満たす必要があります。

加えて、他の相続人との遺産分割で揉めるリスクもある。後継者に自社株を集中させると、他の兄弟姉妹の取り分が減る。この調整に失敗して、親族間の争いが承継後も尾を引くケースは想像以上に多い。

第三者承継の場合

M&Aでは買い手が株式の対価を支払うため、売り手経営者は現金を手にできます。譲渡所得税は約20%(所得税15.315%+住民税5%)の分離課税で計算されるため、相続税や贈与税と比べて税率は低い場合がほとんどです。

自社株評価額1億円の会社をM&Aで売却した場合、譲渡所得税は約2,000万円。手取りは約8,000万円です。親族内承継で後継者に4,800万円の贈与税が発生するケースと比較すると、家族全体で見た経済的メリットはM&Aのほうが大きいことがわかります。

準備期間と実行の負担

親族内承継

後継者候補を社内で育成するプロセスが必要です。各部門への配属、取引先への紹介、経営判断の訓練。5〜10年のスパンで取り組むのが一般的とされています。

後継者の育成が順調に進む保証はありません。現場では有能でも、経営判断の局面で力を発揮できないこともある。「10年かけて育てたが向いていなかった」というケースは珍しくない。その場合、経営者の年齢はさらに上がり、残された選択肢は狭まっています。

第三者承継

M&Aの成約までは半年から2年程度。親族内承継と比べて圧倒的に短期間で完了します。

ただし、買い手探しとデューデリジェンス(企業調査)の過程で、財務情報や事業の詳細を開示する必要があります。長年見て見ぬふりをしてきた簿外債務や未整理の契約関係が表面化し、売却条件に影響することもある。準備が整っている会社ほど、交渉はスムーズに進みます。

従業員への影響

親族内承継

従業員にとっては「社長の息子さんが継ぐ」という自然な流れに見えるため、心理的な抵抗は小さい傾向があります。ただし、後継者の実力が伴わない場合は別です。古参社員が「あの若旦那の下では働けない」と退職するリスクは現実に存在します。

第三者承継

M&Aの発表直後は従業員に不安が広がることが多い。「解雇されるのでは」「労働条件が悪くなるのでは」といった懸念を持つのは当然です。

しかし実際には、中小企業のM&Aでは従業員の雇用条件がそのまま維持されるケースが大半です。買い手にとって、事業を運営するのは現場の従業員であり、人材の流出は買収の価値を毀損する。そのため、雇用維持条項をM&A契約に盛り込むのが一般的になっています。

むしろ、資金力のある親会社がつくことで福利厚生が改善されたり、キャリアパスが広がったりするケースもある。

判断基準の整理

以下の観点で比較すると、どちらが自社に適しているか見えてきます。

判断項目親族内承継が有利第三者承継が有利
後継者候補意欲・能力のある親族がいる親族に後継者候補がいない
時間的余裕5年以上の準備期間がある経営者の年齢が70歳以上
税負担事業承継税制を活用できる税制適用が難しい、または税率比較で有利
経営者の希望会社に関わり続けたい引退して売却益を得たい
会社の成長性現状維持で十分成長に外部資源が必要

どちらかに固執しないこと

多くの経営者が「できれば親族に」と考えます。その気持ちは理解できる。しかし、承継は経営者個人の希望だけで決めるものではありません。

後継者の意思、従業員の生活、取引先への影響、そして会社の将来の成長可能性。これらを総合的に考えたとき、最善の選択肢はどちらになるか。

もし親族内承継とM&Aの両方に可能性があるなら、並行して検討を進めることをお勧めします。片方がうまくいかなかった場合のバックアッププランがあるだけで、精神的な余裕がまったく違ってきます。

よくある質問

親族内承継からM&Aに方針転換することはできますか?
できます。実際、後継者候補の親族が辞退したためにM&Aに切り替えるケースは多く見られます。ただし方針転換が遅れるほど経営者の年齢が上がり、交渉力も低下するため、早めの判断が重要です。
親族に継がせたいが、本人が嫌がっています。どうすべきですか?
無理に継がせるのは避けるべきです。意欲のない後継者に経営を任せると、従業員の離職や業績悪化を招くリスクが高い。本人の意思を尊重しつつ、M&Aや従業員承継など他の選択肢を並行して検討してください。
第三者承継で従業員の雇用は守れますか?
株式譲渡の場合、雇用契約は原則そのまま引き継がれます。多くのM&A契約では一定期間の雇用維持条項が盛り込まれるため、廃業するよりもはるかに雇用は守られやすいといえます。
#親族内承継#第三者承継#M&A#事業承継#比較

関連記事