中小企業の約6割が「後継者未定」
中小企業庁の調査によると、2025年時点で中小企業経営者の平均年齢は62.5歳。そのうち約6割が後継者を決めていません。年間約5万社が後継者不在を理由に廃業しており、黒字経営にもかかわらず会社を畳むケースも珍しくない状況が続いています。
事業承継は「いつかやればいい」ものではありません。準備が遅れるほど、取れる手段は狭まっていく。経営者本人の体力や判断力が低下してからでは、交渉や手続きにも支障が出ます。
この記事では、事業承継の3つの方法と、自社にとってどれが最適かを判断するための基準を整理します。
事業承継の3つの方法
事業承継は大きく分けて3つの方法があります。
1. 親族内承継
経営者の子どもや配偶者、兄弟姉妹など親族に事業を引き継ぐ方法です。日本では長らく主流だった承継形態で、現在でも全体の約35%を占めています。
会社の文化や取引先との関係を自然に引き継ぎやすい反面、後継者の経営能力が不足していた場合に事業が傾くリスクがあります。「息子だから」という理由だけで承継させた結果、従業員が大量離職したという事例は少なくありません。
相続税や贈与税の負担が大きくなりがちですが、事業承継税制の特例措置を使えば納税猶予を受けられる場合もあります。
2. 従業員承継(MBO)
役員や従業員に事業を引き継ぐ方法です。近年は増加傾向にあり、全体の約30%を占めるようになりました。
事業内容を熟知した人材が引き継ぐため、業務の継続性が高いのが強みです。取引先や顧客との関係も維持しやすい。一方で、株式の買取資金をどう調達するかが最大のハードルになります。
従業員個人に数千万円から数億円の資金力があることはまれです。金融機関からの融資やファンドの活用、段階的な株式譲渡といった工夫が必要になるでしょう。
3. 第三者承継(M&A)
社外の企業や個人に事業を売却する方法です。後継者不在の中小企業にとって、廃業を回避する有力な手段として急速に普及しています。
2025年の中小企業M&A成約件数は約4,000件。10年前と比べて3倍以上に増加しました。BATONZやTRANBIといったマッチングプラットフォームの登場で、小規模案件でも買い手が見つかりやすくなっています。
売却益を得られるため、経営者のリタイア資金にもなります。従業員の雇用も維持されるケースが多く、廃業よりも関係者全体の利益につながる選択肢だといえます。
3つの方法を比較する
| 項目 | 親族内承継 | 従業員承継 | M&A |
|---|---|---|---|
| 準備期間 | 5〜10年 | 3〜7年 | 半年〜2年 |
| 資金負担 | 相続税・贈与税 | 株式買取資金 | 仲介手数料 |
| 事業の継続性 | 高い | 高い | 買い手次第 |
| 売却益 | なし | 限定的 | あり |
| 従業員の反応 | 受け入れやすい | 受け入れやすい | 不安が生じやすい |
どの方法を選ぶべきか
判断の軸は3つあります。
後継者候補がいるかどうか。親族や従業員に経営意欲と能力のある人材がいれば、親族内承継か従業員承継が第一候補になります。「いない」「断られた」場合はM&Aを検討する段階です。
資金面の問題を解決できるか。親族内承継では相続税・贈与税、従業員承継では株式買取資金が課題になります。事業承継税制や融資制度を活用できるかどうかで、実現可能性が大きく変わります。
経営者自身の希望。売却益を得てリタイアしたいのか、会社に関わり続けたいのか。この点を曖昧にしたまま進めると、後から方針がぶれてしまうことがあります。
承継準備は「早すぎる」くらいでちょうどいい
中小企業庁は「経営者が60歳になったら事業承継の準備を始めるべき」と提言しています。ただ、実際に相談に来る経営者の多くは70代に入ってからです。
後継者の育成には最低でも3年、親族内承継なら5年以上かかることもある。体力や判断力に余裕があるうちに動き出すべきです。
まずは事業承継・引継ぎ支援センターへの相談や、顧問税理士への相談から始めてみてください。選択肢を知るだけでも、見える景色は変わります。