使える制度を知らずに廃業する企業が多すぎる
事業承継にかかるコストは小さくありません。M&Aの仲介手数料で200〜500万円、デューデリジェンス費用で30〜100万円、税理士や弁護士への報酬も加えると、承継プロセス全体で数百万円の費用が発生します。
これらの費用がネックとなって、事業承継に踏み切れない中小企業は少なくない。実は国や自治体が用意している補助金や支援制度を活用すれば、自己負担を大幅に抑えられます。問題は、制度の存在そのものを知らない経営者が圧倒的に多いことです。
2026年度に利用可能な主要制度を整理しました。
事業承継・引継ぎ補助金
中小企業庁が実施する事業承継専門の補助金です。3つの事業類型に分かれています。
経営革新事業
事業承継やM&Aをきっかけに、新たな取り組みを行う中小企業を支援する類型です。承継後の新商品開発、新市場開拓、設備投資、販路拡大などが対象になります。
- 補助率:2/3
- 補助上限:600万円(一定条件で800万円に拡充)
- 対象者:事業承継を行った、または行う予定の中小企業
たとえば、父親から飲食店を引き継いだ後継者が、テイクアウト事業を新たに始めるための厨房設備投資に300万円を使った場合、200万円が補助される計算です。
専門家活用事業
M&Aに関する専門家費用を補助する類型です。仲介手数料、FA報酬、デューデリジェンス費用、弁護士費用、税理士費用が対象に含まれます。
- 補助率:2/3
- 補助上限:600万円
- 対象者:M&Aにより事業の引継ぎを行う売り手・買い手の中小企業
M&A仲介手数料が300万円、DD費用が60万円かかった場合、合計360万円の2/3にあたる240万円が補助される計算になります。仲介会社に支払う最低手数料が重い小規模案件ほど、この補助金の恩恵は大きい。
廃業・再チャレンジ事業
M&Aが成立しなかった場合や、事業の一部を廃業する場合の費用を補助する類型です。在庫処分費、設備撤去費、原状回復費などが対象です。
- 補助率:2/3
- 補助上限:150万円
- 他の事業類型と併用可能
経営力向上計画による税制優遇
中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の認定を受けると、事業承継に関連する税制優遇を受けられます。
登録免許税・不動産取得税の軽減
M&Aで不動産を含む事業を取得した場合、通常は登録免許税(2%)と不動産取得税(4%)が課されます。経営力向上計画の認定を受ければ、登録免許税は0.4%に、不動産取得税は課税標準から一定額が控除されます。
土地・建物の評価額が5,000万円のケースでは、登録免許税だけで80万円の節約になります。
設備投資の即時償却・税額控除
承継後に行う設備投資について、即時償却か10%の税額控除(資本金3,000万円超の中小企業は7%)を選択できます。
事業承継・引継ぎ支援センター
全国47都道府県に設置された公的な相談窓口です。相談料は無料。
主なサービス内容
- 事業承継の方向性に関する相談・助言
- 後継者人材バンクによるマッチング支援
- M&A案件の登録・マッチング
- 経営者保証解除に向けた支援
年間の相談件数は全国で約5万件を超えています。M&Aマッチング支援では、2024年度に約2,000件の成約実績がありました。
民間のM&A仲介会社と異なり、成約手数料がかからないか、もしくは低廉な手数料で利用できる点が大きなメリットです。小規模案件で仲介手数料が割に合わない場合に特に有効な選択肢になります。
日本政策金融公庫の融資制度
事業承継・集約・活性化支援資金
事業承継やM&Aに取り組む中小企業向けの融資制度です。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 金利:基準利率から0.4%引き下げ(一定条件あり)
- 返済期間:設備資金20年以内、運転資金7年以内
MBO(従業員承継)における株式買取資金や、M&A後の運転資金として利用できます。通常の事業融資と比べて金利優遇があるため、資金調達コストを抑えられます。
経営者保証免除の流れ
事業承継時に問題になりやすい経営者保証(個人保証)についても、政府は解除を推進しています。2024年4月から「経営者保証改革プログラム」が本格運用されており、一定の財務基盤がある企業は経営者保証なしで融資を受けやすくなりました。
自治体独自の支援制度
国の制度に加えて、各自治体が独自の補助金や助成金を設けているケースがあります。
東京都では「事業承継支援助成金」として、事業承継に要する専門家費用や設備投資に対して最大200万円を助成。大阪府では中小企業のM&A促進事業として、マッチング支援や専門家派遣を無料で実施しています。
自治体の制度は毎年度の予算で内容が変わるため、地元の商工会議所や中小企業支援センターで最新情報を確認してください。
制度活用のポイント
補助金申請で重要なのは、スケジュール管理と申請書類の質です。
事業承継・引継ぎ補助金は年に複数回の公募がありますが、公募期間は1〜2か月程度と短い。事前に事業計画を練っておかなければ、申請書類の作成が間に合いません。
採択率を上げるには、認定経営革新等支援機関のサポートを受けるのが効果的です。顧問税理士が認定支援機関であれば追加コストなしで支援を受けられる場合もあります。
制度は毎年度の改正で要件や補助額が変わるため、最新情報は中小企業庁のウェブサイトか、事業承継・引継ぎ支援センターで確認する習慣をつけておきましょう。