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M&Aの会計処理:仕訳・消費税・確定申告のポイント
法務・税務

M&Aの会計処理:仕訳・消費税・確定申告のポイント

17分

スキームの違いが会計処理を根本から変える

M&Aの会計処理は、株式譲渡か事業譲渡かで全く異なる。消費税の課税関係も変わるし、のれんの扱いも違う。仕訳を間違えれば税務調査で否認されるリスクがあり、修正申告と延滞税が待っている。

ここでは中小企業のM&Aで特に多い株式譲渡と事業譲渡に絞って、売り手・買い手双方の会計処理を具体的な数字とともに整理する。

株式譲渡の仕訳:売り手側

株式譲渡では、売り手が保有する対象会社の株式を買い手に移転する。売り手の個人・法人の別で処理が異なる。

個人オーナーが売却する場合

個人が株式を売却した場合、譲渡所得として申告分離課税の対象になる。税率は所得税15.315%、住民税5%の合計約20.315%。これは譲渡価格がいくらであっても一律だ。

たとえば、取得価額500万円の株式を5,000万円で売却した場合。譲渡所得は4,500万円。税額は約914万円となり、手取りは約4,086万円になる。

個人の場合、帳簿上の仕訳は不要だが、確定申告書の「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」に譲渡対価、取得費、譲渡費用を記載して申告する。仲介手数料や弁護士費用は譲渡費用に含められるため、課税所得を圧縮できる。

法人が売却する場合

法人が保有する子会社株式を売却する場合の仕訳は以下のとおり。

売却対価5,000万円、帳簿価額500万円のケースでは、借方に「現金預金 5,000万円」、貸方に「子会社株式 500万円」「有価証券売却益 4,500万円」と処理する。この売却益4,500万円は法人税等の課税対象になる。実効税率を約30%とすると、税負担は約1,350万円だ。

法人の場合、売却益は他の損金と通算できる。赤字の事業年度であれば税負担を大幅に抑えられるため、売却時期の判断が重要になってくる。

株式譲渡の仕訳:買い手側

買い手は取得した株式を有価証券として資産計上する。取得原価には購入代価のほか、取得に直接要した付随費用も含める。

取得価額5,000万円、仲介手数料200万円の場合、借方に「子会社株式 5,200万円」、貸方に「現金預金 5,200万円」とするのが原則だ。

株式譲渡では消費税は非課税。株式は有価証券であり、有価証券の譲渡は消費税法上の非課税取引に該当するためだ。仲介手数料や弁護士費用といったサービス対価には別途消費税がかかる点には注意してほしい。

なお、連結財務諸表を作成する場合は、取得原価と対象会社の純資産の差額がのれんとして計上され、20年以内の期間で均等償却される。

事業譲渡の仕訳:消費税が最大の論点

事業譲渡は株式ではなく、事業そのもの、つまり資産・負債・契約をまとめて移転するスキームだ。個々の資産ごとに消費税の課税・非課税を判定する必要がある。

売り手側の仕訳

以下の事業を8,000万円で譲渡する場合を考えてみよう。

譲渡資産の内訳が、土地3,000万円、建物2,000万円、機械装置500万円、棚卸資産300万円、のれん2,200万円だとする。

土地は非課税資産。建物、機械装置、棚卸資産、のれんは課税資産にあたる。課税資産の合計は5,000万円で、これに10%の消費税500万円が上乗せされ、買い手から受け取る総額は8,500万円になる。

売り手の仕訳では、受け取った消費税500万円を「仮受消費税」として計上し、確定申告時に納付する。事業譲渡を行う期の消費税申告では、この譲渡対価が課税売上に加算されるため、課税売上割合にも影響が出る。普段は簡易課税を選択している事業者でも、事業譲渡の対価が加わることで基準期間の課税売上高が5,000万円を超え、本則課税が強制適用されるケースがある。

買い手側の仕訳

買い手は取得した個別資産をそれぞれの勘定科目で資産計上する。支払った消費税は「仮払消費税」として処理し、仕入税額控除の対象になる。

のれんは税務上「資産調整勘定」として5年間で均等償却する。会計上は20年以内の任意の期間で償却できるため、税務と会計で償却期間が異なるケースが多い。この差異は税効果会計の対象となる。

確定申告の実務:個人と法人で異なるルート

個人オーナーの確定申告

株式譲渡の場合は、申告分離課税として確定申告を行う。上場株式と異なり、非上場株式の譲渡所得は特定口座の対象外であるため、必ず確定申告が必要だ。

申告書には「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付する。取得費が不明な場合は、譲渡対価の5%を概算取得費として使える。ただし、実際の取得費のほうが高ければ損をするため、設立時の出資金額や過去の株式取得記録を可能な限り探してほしい。

事業譲渡で個人が事業用資産を売却した場合は、総合課税の譲渡所得または事業所得として申告する。事業用の棚卸資産を譲渡した場合は事業所得に該当し、他の所得と合算される。土地や建物の譲渡は分離課税だ。このように、事業譲渡では資産の種類ごとに所得区分が異なるため、税理士との連携が欠かせない。

法人の申告

法人の場合は通常の法人税申告のなかで処理する。株式譲渡益も事業譲渡益も、すべて法人の各事業年度の所得に合算される。分離課税の仕組みはない。

注意すべきは事業年度の区切りだ。M&Aのクロージング日が事業年度末と近い場合、譲渡損益がどの期に帰属するかで税負担が変わることがある。株式譲渡であれば株式の引渡日、事業譲渡であれば個別資産の引渡日を基準にするのが原則だが、契約の定め方次第で判断が分かれるケースもある。

DD費用・仲介手数料の会計処理

M&Aでは仲介手数料、DD費用、弁護士費用、会計士費用など多額の付随費用が発生する。これらの処理は、会計基準と税法で扱いが異なるため注意が必要だ。

会計上の処理

個別財務諸表では、株式取得に直接要した費用は取得原価に含める。連結財務諸表では、取得関連費用は発生した事業年度の費用として処理する。2025年4月1日以降開始事業年度からは、IFRS10に基づく支配の判定が導入されるため、連結範囲の判断基準も変わっている。

税務上の処理

税務上は「いつ意思決定したか」が分水嶺になる。特定の有価証券を取得することを決定する前に支出した調査費用は、損金として処理できる。決定後に支出した費用は、有価証券の取得価額に算入される。

たとえば、初期的な企業調査やノンネームシートの段階で支払うアドバイザリー費用は損金算入の余地がある。一方、基本合意後のDD費用は取得価額に含めるのが原則だ。

この判断は微妙なケースが多い。税務調査で否認されるリスクを考えると、支出の時期と意思決定のタイミングを証跡として残しておくことが実務上きわめて重要になる。取締役会の議事録、LOIの締結日、FA契約の日付など、客観的な記録を整備しておこう。

売り手側の費用処理

売り手が支払う仲介手数料やアドバイザリー費用は、法人であれば損金算入が可能。個人であれば譲渡費用として取得費に加算でき、課税所得を圧縮できる。成功報酬型のフィーであれば、M&A成約の事業年度に一括で費用計上する。

消費税の落とし穴:株式譲渡でも油断できない

株式譲渡自体は非課税取引だが、消費税計算に影響がないわけではない。

非課税売上が発生すると、課税売上割合が下がる。課税売上割合が95%未満になると、仕入税額控除が全額できなくなり、控除対象外消費税が発生する。株式の譲渡対価が大きいと、この影響は無視できない。

ただし、有価証券の譲渡については対価の5%を非課税売上に算入する特例がある。1億円の株式を譲渡しても、非課税売上としてカウントされるのは500万円だ。この特例を知っているかどうかで、消費税の納税額が変わってくる。

事業譲渡ではこの問題はさらに深刻になる。課税資産と非課税資産の区分を誤れば、消費税の過少申告につながる。特にのれんの扱いには注意が必要で、のれんは消費税法上の資産の譲渡等に該当し、課税対象になる。のれんが大きいM&Aほど、消費税の負担も大きくなるわけだ。

実務で失敗しないための3つの原則

M&Aの会計処理で最も重要なのは、スキームが確定した時点で税理士・会計士と処理方針を握ることだ。クロージング後に「この費用はどう処理すればいいのか」と悩むケースが後を絶たないが、事前に決めておけば避けられる問題がほとんどだ。

一つ目は、スキーム検討段階から税務シミュレーションを行うこと。株式譲渡と事業譲渡では手取り額が数千万円単位で変わるケースがある。

二つ目は、すべての支出に日付と目的を記録すること。DD費用や仲介手数料の損金算入可否は、支出のタイミングと意思決定の時期に左右される。

三つ目は、消費税の影響を甘く見ないこと。事業譲渡でのれんが大きい場合、消費税だけで数百万円の差が出ることも珍しくない。M&Aの対価交渉では、消費税込みの金額なのか税抜きなのかを明確にしておく必要がある。

会計処理は地味な作業に見えるかもしれない。しかし、ここを疎かにすると利益が目減りし、せっかくのM&Aの経済効果が薄れてしまう。専門家の力を借りながら、一つひとつ確実に処理してほしい。

よくある質問

株式譲渡にかかる税率はどのくらいですか?
個人が株式を譲渡した場合、譲渡所得に対して所得税15.315%と住民税5%の合計約20.315%が課税されます。申告分離課税のため、他の所得とは合算されません。法人が売り手の場合は法人税等の実効税率(約30%前後)で課税されます。
事業譲渡で消費税がかかる資産は何ですか?
棚卸資産、機械装置、車両、備品、ソフトウェアなどの動産や無形資産、そしてのれん(営業権)が課税対象です。一方、土地や有価証券、売掛金などの金銭債権は非課税となります。課税資産と非課税資産を正確に区分することが重要です。
M&Aの仲介手数料は損金算入できますか?
売り手が法人であれば、仲介手数料は損金算入が可能です。買い手側は注意が必要で、株式譲渡の場合は取得価額に含めるのが原則です。ただし、株式取得の意思決定前に発生した調査費用は損金処理できるとされています。
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