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M&Aのクロージングとは?最終手続きの流れ
法務・税務

M&Aのクロージングとは?最終手続きの流れ

17分

クロージングはM&A取引の「完了日」

M&Aにおけるクロージングとは、最終契約書(SPA / DA)に定められた条件に基づき、経営権の移転と対価の支払いを実行する手続きのことだ。株式譲渡であれば「株式の引渡しと代金の支払い」、事業譲渡であれば「事業用資産の引渡しと代金の支払い」がクロージングの本質になる。

M&Aの手続きには多くのステップがあるが、クロージングはその最終地点に位置する。NDA→LOI→DD→SPA→クロージングという一連の流れの中で、クロージングを経てはじめて「M&Aが成立した」と言える。

SPA締結とクロージングは別の日

M&Aに馴染みのない人が混同しがちなのが、「最終契約書の締結日」と「クロージング日」の違いだ。

SPA(最終契約書)の締結は、取引条件の合意と署名を行う行為。クロージングは、SPAに書かれた内容を実際に履行する行為。この2つは通常、別の日に行われる。

SPA締結からクロージングまでの間に、売り手・買い手の双方が前提条件(CP: Condition Precedent / クロージング条件)を充足させる。CPがすべて満たされた時点でクロージングを実行する。中小企業M&Aの場合、この期間は1〜3カ月が一般的だが、許認可の取得や関係者の同意取得に時間がかかる場合は半年以上に延びることもある。

小規模な案件では、SPA締結とクロージングを同日に行うケースもある。ただしその場合でも、CPの確認→SPA締結→資金決済→書類交付という順序は変わらない。

前提条件(CP)とは何か

前提条件(Condition Precedent / CP)は、クロージングを実行するために事前に充足すべき条件のことだ。SPAに明記される。CPが一つでも充足されなければ、相手方はクロージングを拒否できる。

売り手側のCP(買い手がクロージング前に確認する条件)

CP項目内容
表明保証の正確性SPA締結時の表明保証がクロージング時点でも真実であること
誓約事項の履行SPA締結後にクロージングまでの間に行うべき事項を完了していること
MAC条項の不発動重大な悪影響(Material Adverse Change)が発生していないこと
許認可の維持事業に必要な許認可が有効であること
キーマンの残留重要な従業員との残留合意が取れていること
取引先の同意チェンジ・オブ・コントロール条項がある取引先からの同意取得
株主総会決議必要な場合、株主総会での譲渡承認決議
競争法上の届出公正取引委員会への届出が必要な場合、待機期間の経過

買い手側のCP(売り手がクロージング前に確認する条件)

CP項目内容
資金の確保譲渡対価の支払い原資が確保されていること
表明保証の正確性買い手の表明保証がクロージング時点でも真実であること
社内承認手続き取締役会決議等の社内手続きが完了していること

MAC条項に注意

MAC条項(Material Adverse Change / 重大な悪影響条項)は、SPA締結後からクロージングまでの間に、対象企業に重大な悪影響が生じた場合に、買い手がクロージングを拒否できる条項だ。

「重大な悪影響」の定義は交渉で決まる。売り手としては範囲を狭く限定したい。「売上が前年同期比30%以上減少した場合」のように具体的な数値基準を設けるか、「天災、法改正、業界全体に影響する景気変動は除く」という除外規定を入れるのが一般的な交渉ポイントになる。

クロージング当日の流れ

クロージング当日は、売り手・買い手・仲介会社(および各側の弁護士)が一堂に会し、以下の手続きを実行する。所要時間は書類が揃っていれば2〜3時間、問題がなければ午前中に完了することが多い。

STEP 1: 前提条件の最終確認

クロージングの冒頭で、すべてのCPが充足されていることを双方が確認する。確認書(CPチェックリスト)に署名する場合もある。未充足のCPがある場合は、クロージングの延期か、条件の免除(waiver)について協議する。

STEP 2: クロージング書類の確認・交付

売り手側が用意する書類と買い手側が用意する書類を相互に確認し、交付する。

売り手が交付する書類

  • 株式譲渡承認に関する取締役会議事録(写し)
  • 株主名簿書換請求書
  • 株券(株券発行会社の場合)
  • 印鑑届出書の変更届
  • 代表取締役の辞任届(交代する場合)
  • 各種鍵・暗証番号・アクセス権限の引継書
  • 売り手の表明保証が真実である旨の確認書

買い手が交付する書類

  • 資金決済の証憑(振込依頼書の控え等)
  • 新任取締役の就任承諾書
  • 買い手の表明保証が真実である旨の確認書

STEP 3: 資金決済

買い手から売り手の指定口座に譲渡対価が振り込まれる。振込完了の確認は、売り手側の銀行への電話確認またはオンラインバンキングでの着金確認により行う。

振込のタイミングはSPAで定められているが、クロージング当日の午前中に実行するのが一般的。着金確認後に書類の交付を行うか、書類交付と同時に振込指示を出すかは、案件ごとの取り決めによる。

大型案件では、エスクロー(信託口座に代金の一部を預ける仕組み)が使われることもある。表明保証違反が発覚した場合の補償原資として、譲渡対価の10〜20%を一定期間エスクローに留置し、問題がなければ一定期間後に売り手に支払う設計だ。

STEP 4: 株主名簿の書換え

株式譲渡の場合、株主名簿に買い手の名前を記載する手続き(名義書換え)を行う。これにより法的に株式の移転が完了する。非上場の中小企業では、対象企業が自社で株主名簿を管理しているため、その場で書換えを行う。

STEP 5: 役員変更手続き

M&A後に代表取締役や取締役の交代が伴う場合、クロージング当日またはクロージング後速やかに臨時株主総会・取締役会を開催し、新役員を選任する。

クロージング後に必要な手続き

クロージングが完了した後も、以下の手続きが残る。

登記手続き

役員変更、代表取締役の住所変更、本店移転などが伴う場合は、法務局への変届登記が必要になる。登記申請はクロージング後2週間以内に行うのが原則だ。会社売却に伴う登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的で、費用は10万〜30万円程度。

届出・通知

届出先届出内容期限
税務署異動届出書(代表者変更等)速やかに
都道府県税事務所異動届出書速やかに
市区町村異動届出書速やかに
年金事務所届出(役員変更・所在地変更等)変更後5日以内
労働基準監督署適用事業報告の変更速やかに
ハローワーク届出(事業主の変更等)変更後10日以内
取引銀行届出印鑑の変更・口座名義変更速やかに
許認可の監督官庁変更届出許認可ごとに異なる

関係者への挨拶・通知

クロージング後、以下の関係者にM&Aの事実と今後の方針を伝える。この対応の巧拙が、M&A後の事業運営を左右する。

従業員への告知。最も慎重な対応が求められる。通常、クロージング当日または翌営業日に全従業員を集めて説明会を開催する。「経営方針は変わらない」「雇用条件は維持される」というメッセージを売り手・買い手の双方から伝えるのが基本だ。

取引先への挨拶。主要取引先には売り手と買い手の代表が同行して挨拶に回る。取引条件の変更がない旨を直接伝えることで、取引継続への不安を払拭する。

金融機関への報告。借入がある場合は特に重要。代表者変更に伴う連帯保証の切り替え交渉も、クロージング後の重要なタスクになる。

クロージングで失敗しないための3つのポイント

1. CPの充足を早期に着手する

SPA締結後すぐにCPの充足作業を開始すべきだ。許認可の変更届出や取引先からの同意取得は、想定以上に時間がかかることがある。クロージング期日が迫ってから慌てて対応するのは避けたい。

CPの進捗管理は、チェックリストを作成して売り手・買い手・仲介会社で共有するのが確実だ。週次で進捗を確認し、遅延が見込まれるCPについては早期に対策を打つ。

2. 資金決済のリハーサルをする

クロージング当日の資金決済で振込エラーが発生するケースは意外に多い。振込限度額の設定不足、振込先口座情報の誤り、銀行の営業時間外に振込指示を出してしまうなど、事務的なミスが原因だ。

クロージング日の数日前に、振込先口座への少額テスト送金を行うことを推奨する。また、大口振込の場合は事前に銀行に連絡を入れておくとスムーズだ。

3. クロージング後の100日計画を準備する

クロージングはM&Aの終点ではなく、PMI(Post Merger Integration / 統合プロセス)の起点だ。クロージング後100日間の行動計画(100日プラン)を、クロージング前に策定しておくことを強く推奨する。

100日プランには、従業員への説明、取引先への挨拶、システム統合のスケジュール、組織体制の変更、経営管理体制の構築などを盛り込む。特に従業員のケアは初動が重要で、クロージング直後の1〜2週間の対応が、その後の離職率に直結する。

事業譲渡の場合のクロージング

事業譲渡の場合は、株式譲渡と異なる手続きが加わる。

資産の個別移転。事業譲渡では、譲渡対象の資産・負債を一つずつ移転する必要がある。不動産は所有権移転登記、自動車は名義変更、リース契約は再契約または名義変更の手続きを行う。

従業員の転籍手続き。事業譲渡では雇用契約が自動承継されないため、従業員一人ひとりから転籍同意書を取得する。買い手企業との新たな雇用契約書の締結も必要になる。

取引先との再契約。契約上の地位が自動承継されないため、取引先ごとに新たな契約を締結するか、三者間の契約上の地位移転契約を結ぶ。

これらの手続きは株式譲渡と比べて工数が多く、クロージングまでの期間も長くなりやすい。事業譲渡のM&A手続きでは、SPA締結からクロージングまで2〜4カ月を見込んでおくべきだ。

クロージングは「始まり」でもある

M&Aのクロージングは、長い交渉プロセスの完了点であると同時に、新たな経営の出発点でもある。契約書上の手続きを正確に履行することはもちろん重要だが、それ以上に、クロージング後の事業運営をスムーズに立ち上げるための準備にこそ注力すべきだ。

資金決済と書類交付は1日で終わる。だが、従業員の信頼を得て、取引先との関係を維持し、事業を成長軌道に乗せるのは、クロージング後の日々の積み重ねにかかっている。

よくある質問

M&Aのクロージングにはどのくらいの期間がかかりますか?
最終契約書(SPA)の締結からクロージングまでは、中小企業M&Aで1〜3カ月が一般的です。前提条件の充足に時間がかかる場合は半年以上になることもあります。クロージング当日の手続き自体は、書類が揃っていれば1日で完了します。
クロージングと最終契約書の締結は同じ日にできますか?
中小企業の小規模案件では、SPA締結とクロージングを同日に行うケースもあります。ただし前提条件の確認や資金決済の準備に余裕を持つため、通常は1〜4週間の間隔を空けます。同日実施の場合でも、SPA締結→CP確認→資金決済→書類交付の順序は変わりません。
クロージング後にトラブルが発生した場合はどうなりますか?
SPAの表明保証条項と補償条項に基づいて対応します。クロージング後に簿外債務が発覚した場合などは、表明保証違反として売り手に損害賠償を請求できます。請求可能期間は通常1〜3年、補償上限は譲渡価格の10〜30%で設定されることが多いです。
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