M&Aの総コストは「譲渡価格」だけでは分からない
事業を買うとなると、まず気になるのが予算です。
結論を先に言うと、スモールM&Aで実際に必要な資金は「譲渡価格の1.3〜1.8倍」になります。譲渡価格500万円の案件なら、総額650〜900万円を準備する必要があるということです。
この差額は何か。手数料、専門家費用、そして引き継ぎ後の運転資金です。予算を譲渡価格だけで考えると資金ショートの原因になるため、内訳を正しく把握しておくことが重要です。
費用の内訳を項目ごとに整理する
M&Aにかかる費用は大きく5つに分類できます。
譲渡価格(事業の購入代金)
事業そのものの対価です。スモールM&Aでは数十万円から数千万円まで幅がありますが、個人買い手に人気のある価格帯は300〜1,500万円です。
BATONZの2025年データでは、個人買い手の成約価格の中央値は約600万円でした。平均値はそれより高くなりますが、一部の高額案件が引き上げているため、中央値の方が参考になるでしょう。
プラットフォーム手数料
BATONZの場合、買い手側の手数料は成約価格の5%(税別、最低5.5万円)。TRANBIは買い手無料のプランもありますが、2024年から一部有料化が進んでいます。
仲介会社を使う場合はレーマン方式が一般的で、成約価格5,000万円以下の部分に対して5%、それ以上は段階的に料率が下がる仕組みです。ただし最低手数料が100〜200万円に設定されているケースが多いため、500万円以下の案件では手数料率が実質的に20%を超えることもあります。小規模案件にはプラットフォーム直接交渉が向いているのはこのためです。
デューデリジェンス費用
財務DDと法務DDを税理士・弁護士にそれぞれ依頼した場合、合計30〜80万円程度。案件規模と調査範囲によって変動します。
500万円以下の小規模案件では、フルスコープのDDを行うと費用対効果が悪くなるため、重点項目を絞ったミニDDで対応するケースも多い。具体的には、過去3期の確定申告書と通帳の照合、契約書の確認、未払い債務の有無チェックに絞ると、税理士10〜15万円、弁護士10〜15万円程度で収まります。
契約関連費用
株式譲渡の場合は株式の名義書換、事業譲渡の場合は各種契約の巻き直しや許認可の再取得が発生します。登記変更、印紙代、司法書士報酬などを含めて10〜30万円が目安です。
引き継ぎ後の運転資金
見落としがちですが、ここが最も重要な項目かもしれません。
事業を引き継いだ直後は、仕入れ代金の支払い、従業員の給与、家賃、広告費などの固定費が発生します。売上の入金サイクルによっては、1〜2ヶ月分のキャッシュが先に出ていく。この運転資金を確保しておかないと、事業を買った翌月に資金繰りに困るという笑えない事態になります。
月間固定費の3〜6ヶ月分は別途プールしておきましょう。
価格帯別の案件傾向
予算に応じてどんな案件が射程に入るのか、価格帯ごとの傾向をまとめます。
100〜300万円: 個人ブログ、アフィリエイトサイト、小規模ECサイトが中心。月間利益5〜15万円程度の案件が多い。運営の手間は比較的少ないものの、Googleアルゴリズム変動やプラットフォーム依存のリスクがあります。
300〜800万円: 中規模ECサイト、SaaS(月額数十万円規模)、小規模の店舗ビジネスが出てくる価格帯。月間利益15〜40万円程度。副業として運営可能な案件と、ある程度の稼働が必要な案件が混在します。
800〜2,000万円: 安定収益のあるEC事業、BtoB向けサービス、複数店舗の飲食業などが対象に。この価格帯になると月間利益40〜100万円の案件もあり、脱サラして専業で取り組む人が増えます。融資を活用するケースも一般的。
2,000〜5,000万円: 従業員を抱えた法人の買収が中心。仲介会社を入れるケースが多くなり、DDもフルスコープで行うのが標準的です。自己資金と融資を組み合わせるのが前提になるでしょう。
予算の組み方:具体例
たとえば、譲渡価格500万円のECサイトを個人で買収する場合の資金計画です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡価格 | 500万円 |
| PF手数料(BATONZ 5%) | 25万円 |
| ミニDD(税理士+弁護士) | 25万円 |
| 契約関連費用 | 10万円 |
| 運転資金(3ヶ月分) | 90万円 |
| 合計 | 650万円 |
自己資金400万円、日本政策金融公庫からの融資250万円で調達するイメージです。公庫の創業融資は金利1〜2%台で、返済期間は最長15年。M&A目的でも利用可能なケースがあるため、最寄りの支店に相談する価値はあります。
「安い案件」に飛びつく前に
100万円以下の超低額案件は数も多く、M&A入門として魅力的に見えます。しかし安いものには理由がある。
売上がほぼゼロに近い、Googleのペナルティを受けている、プラットフォームの規約変更で収益モデルが崩壊している、といったケースが少なくありません。「安くてリスクが低い」のではなく「安いからリスクがある」という視点で見ることが大切です。
逆に、予算に対してやや高めに感じる案件でも、収益の安定性が高く、属人性が低いのであれば、投資回収の確実性は高くなります。譲渡価格の安さよりも、投資回収期間(譲渡価格を年間利益で割った年数)を基準に判断すべきです。回収期間が3年以内であれば、スモールM&Aとしては優良案件と言えるでしょう。