資金調達は「いくら借りるか」より「どう返すか」
M&Aで事業を買うと決めたとき、多くの人が直面する壁が資金調達です。
スモールM&Aの譲渡価格は数十万円から数千万円まで幅があります。100万円台であれば貯金で対応できるかもしれませんが、500万円を超えると自己資金だけでは厳しくなってくる。ここで資金調達の手段を知っているかどうかが、買える案件の幅を大きく左右します。
ただし忘れてはならないのは、借りたお金は返す必要があるということです。「いくら調達できるか」ではなく「事業の利益で無理なく返せる金額はいくらか」を基準に考えましょう。
5つの資金調達手段
スモールM&Aで使える資金調達の方法は、主に5つあります。
1. 自己資金
最もシンプルでリスクが低い方法。金利負担がなく、返済の心配もない。意思決定も早い。
しかし全額自己資金で買収すると、手元の現預金が一気に減ります。事業の運転資金や予期せぬ出費に対応できなくなるリスクがあるため、全財産を投入するのは避けるべきです。
目安として、生活費の6ヶ月分+事業の運転資金3ヶ月分は手元に残した上で、残りを譲渡価格に充てられるか計算してください。
2. 日本政策金融公庫の融資
個人によるスモールM&Aで最も利用されている融資です。
公庫には「新規開業資金」という融資制度があり、新たに事業を始める人や、開業後7年以内の事業者が対象です。M&A(事業の引き継ぎ)もこの制度の対象になるケースがあります。
主な条件は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 融資上限 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
| 金利 | 年1〜3%程度(担保・保証の有無で変動) |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金7年以内 |
| 担保 | 不要の場合あり(無担保・無保証人の枠あり) |
| 自己資金要件 | 融資額の1/10以上が目安(実態は1/3程度あると有利) |
申請時には事業計画書の提出が求められます。買収する事業の収益計画、自分の経歴や業界経験、資金の使途を具体的に記載する必要があり、「買ったらこうなる」という説得力のある計画を作れるかどうかが審査のポイントです。
申込みから融資実行まで1〜2ヶ月かかるため、案件の交渉と並行して早めに動き始めることを勧めます。
3. 民間銀行のプロパー融資
信用金庫や地方銀行でM&A向けの融資を受ける方法です。
ただし個人のスモールM&Aでは、銀行融資のハードルは高い。担保となる不動産がない場合、信用保証協会の保証付き融資になることが多く、審査に2〜3ヶ月かかるケースもあります。
銀行融資が現実的になるのは、以下のいずれかに該当する場合です。
- 買収する事業の年商が1,000万円以上で、安定した収益実績がある
- 買い手自身が不動産などの担保を提供できる
- 取引実績のある銀行に相談できる
初めてのスモールM&Aでは公庫をメインに据え、銀行は補完的に使うのが現実的な戦略でしょう。
4. 投資家やエンジェルからの出資
個人投資家やエンジェル投資家から出資を受ける方法。法人を設立し、株式の一部を投資家に渡す形が一般的です。
メリットは返済義務がないこと。デメリットは経営権の一部を手放すことと、投資家へのリターン(配当や株式の売却益)が求められることです。
スモールM&Aで出資を受けるケースはまだ少数派ですが、連続起業家が事業をまとめて買収する「サーチファンド」モデルの場合は投資家の出資が前提になります。
個人が初めて事業を買う場合にこの手段を選ぶのは現実的ではありません。ただし知り合いにエンジェル投資の経験がある経営者がいれば、相談してみる価値はあります。
5. 売り手ファイナンス(分割払い)
見落とされがちですが、非常に有効な手段が「売り手に分割払いを交渉する」方法です。
譲渡価格の一部(たとえば30〜50%)を契約時に支払い、残りを6〜24ヶ月にわたって分割で支払う形にします。金利は0〜3%程度で合意することが多い。
売り手ファイナンスのメリットは3つあります。
初期資金の負担が軽くなる: 全額を一括で用意する必要がなくなるため、自己資金が限られている買い手でも案件に手が届きます。
売り手のインセンティブが残る: 分割払いの残金がある間、売り手は事業が順調に続くことに利害が一致します。引き継ぎへの協力度が高くなる効果が期待できます。
一種の保険になる: もし事業に重大な瑕疵(売り手が開示していなかった問題)が見つかった場合、残金の支払いを停止して交渉できる立場になります。
一方で、売り手側にとっては代金の回収リスクが生じるため、すべての売り手が応じてくれるわけではありません。売り手に安心してもらうために、公正証書を作成して支払いの確実性を担保する方法がよく使われます。
資金計画の立て方
複数の調達手段を組み合わせる場合、月々のキャッシュフローをシミュレーションすることが欠かせません。
具体例で見てみましょう。譲渡価格800万円の事業を、以下の構成で取得する場合。
| 調達方法 | 金額 | 月々の返済 |
|---|---|---|
| 自己資金 | 300万円 | なし |
| 公庫融資(金利2%、7年返済) | 400万円 | 約5.1万円 |
| 売り手分割(12ヶ月、金利なし) | 100万円 | 約8.3万円 |
| 合計 | 800万円 | 約13.4万円 |
この場合、事業の月間利益が13.4万円を下回ると返済が苦しくなります。利益が月20万円であれば返済後に6.6万円が手元に残り、30万円なら16.6万円。いずれにしても利益の半分以上が返済に消える計算です。
ここで重要なのは、利益の見積もりを保守的に行うことです。売り手が提示する利益計画の7〜8割程度で計算しておけば、多少の業績悪化にも耐えられます。
調達手段を選ぶ際の判断基準
結局、どの手段を選ぶべきか。判断基準は3つです。
譲渡価格が300万円以下: 自己資金で一括が理想。足りなければ売り手ファイナンスを交渉する。この規模で融資を受けると手続きの手間に対して効果が薄い。
譲渡価格300〜1,000万円: 自己資金+公庫融資の組み合わせが王道。自己資金で3割以上を賄えると融資審査も通りやすくなります。
譲渡価格1,000万円以上: 公庫融資+銀行融資+自己資金の三本立て。場合によっては売り手ファイナンスも組み合わせる。この規模になるとM&Aアドバイザーや税理士のサポートを受けながら資金計画を組むべきです。
資金調達は地味な作業ですが、ここを甘く見ると事業を手に入れた後に資金繰りで苦しむことになります。数字を慎重にシミュレーションし、余裕を持った計画を立ててください。