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M&Aの種類と手法:株式譲渡・事業譲渡・合併・分割の違い
スモールM&A入門

M&Aの種類と手法:株式譲渡・事業譲渡・合併・分割の違い

17分

M&Aスキームの全体像

M&Aの手法は複数あるが、実務で使われる頻度には大きな偏りがある。中小企業のM&Aでは、株式譲渡と事業譲渡の2つで大半を占める。合併、会社分割、株式交換は主に上場企業やグループ内の組織再編で登場するスキームだ。

どの手法を選ぶかによって、税金の負担、手続きの煩雑さ、リスクの範囲が変わる。スキーム選択を誤ると、想定外の税負担が生じたり、引き継げないはずの債務を抱え込んだりする。M&Aの当事者は、それぞれのスキームの特徴を正しく理解しておく必要がある。

株式譲渡 -- 中小企業M&Aの主役

仕組み

株式譲渡は、売り手(株主)が保有する株式を買い手に売却する方法だ。発行済株式の過半数を取得すれば経営権を握れるが、中小企業M&Aでは通常100%の株式を譲渡する。

株式が移動するだけなので、会社の法人格はそのまま残る。取引先との契約、従業員の雇用契約、許認可、銀行口座、不動産の名義など、会社に紐づくあらゆる権利義務がそのまま引き継がれる。これが中小企業M&Aで株式譲渡が圧倒的に多い理由だ。

メリット

手続きがシンプルなことが最大のメリットだ。取引先や従業員との個別の契約巻き直しが原則不要で、許認可も会社に付与されているものはそのまま承継できる。クロージングまでのスピードも他のスキームより速い。

売り手の立場では、譲渡対価を株主個人が直接受け取れる点が大きい。事業譲渡の場合は対価が法人に入るため、そこから株主に還元するにはさらに手続きが必要になる。

税務面では、個人株主が株式を譲渡した場合、譲渡益に対して所得税15.315%と住民税5%の合計約20%が課税される。法人税率と比べて低い税率で手取り額を確保できる。

デメリット

会社をまるごと引き継ぐため、簿外債務や偶発債務も一緒に承継してしまうリスクがある。帳簿に載っていない未払残業代、係争中の訴訟、環境汚染の浄化義務など、DDで発見しきれなかった負の遺産が後から出てくる可能性は否定できない。

このリスクを軽減するために、最終契約書に表明保証条項と補償条項を設ける。売り手が「開示していない簿外債務は存在しない」と表明し、違反した場合は補償するという取り決めだ。

使われる場面

オーナー社長が引退にあたって会社全体を譲渡する場合、株式譲渡一択と考えてよい。個人事業ではなく法人形態で、株主構成がシンプルな会社に適している。株主が分散している場合は、事前に株式の集約が必要になることがある。

事業譲渡 -- 必要な部分だけを切り出す

仕組み

事業譲渡は、会社の事業の全部または一部を他の会社に売却する方法だ。株式ではなく事業そのもの、つまり資産・負債・契約・従業員を個別に選んで譲渡する。

たとえば、飲食業とネット通販の2事業を展開する会社が、ネット通販事業だけを売りたい場合に事業譲渡を使う。飲食業はそのまま自社で続け、ネット通販に関わる在庫、設備、取引先との契約、従業員を買い手に移転する。

メリット

買い手にとって最大の利点は、引き継ぐ資産と負債を選べることだ。簿外債務や不要な資産を除外できるため、株式譲渡よりリスクをコントロールしやすい。

売り手にとっても、手放したくない事業を残せるメリットがある。不採算事業だけを売却し、収益性の高い事業に経営資源を集中させる戦略的な使い方ができる。

税務面では、買い手は取得した資産の時価を取得価額にできるため、のれん(営業権)を5年で均等償却できる。この償却費は法人税の計算上、損金に算入できるので、節税メリットがある。

デメリット

手続きの煩雑さが最大の欠点だ。取引先との契約は個別に巻き直しが必要になる。従業員も自動的には移転せず、転籍の同意を一人ひとりから取らなければならない。許認可も会社ではなく事業に付随しない種類のものは、買い手が新たに取得する必要がある。

売り手側の法人に対価が入るため、法人税が課税される。その後、オーナーが手取り資金を得るには配当か残余財産の分配が必要で、二重課税の問題が生じうる。

競業避止義務にも注意が必要だ。会社法の規定により、事業譲渡を行った売り手は、同一市区町村と隣接市区町村において、譲渡した事業と同種の事業を20年間営むことができない。ただし、この期間は当事者間の合意で短縮や排除が可能だ。

使われる場面

複数の事業を展開している会社が一部の事業だけを売りたい場合。個人事業主がM&Aを行う場合(株式がないため)。買い手が簿外債務リスクを徹底的に排除したい場合。これらが事業譲渡の典型的な利用シーンだ。

合併 -- 2つの会社を1つにする

吸収合併

吸収合併は、存続会社が消滅会社の権利義務をすべて承継し、消滅会社が法人格を失う手法だ。消滅会社の株主には、存続会社の株式や現金が対価として交付される。

組織統合を一気に進められるのがメリットだが、労働条件の統一、人事制度の再設計、ITシステムの統合など、負荷は非常に大きい。

新設合併

新設合併は、当事者となるすべての会社が消滅し、新しい法人を設立する方法だ。対等な立場での統合を演出できるが、全社が法人格を失うため許認可の再取得が必要になるケースが多く、実務上は吸収合併よりもさらに使われにくい。

中小企業での合併は少ない

中小企業M&Aで合併が使われるケースはほとんどない。理由は明快で、手続きが重すぎるからだ。債権者保護手続き、株主総会の特別決議、合併契約書の作成、登記手続きと、踏むべきステップが多い。

それに対して株式譲渡は、株式を移転すれば終わる。中小企業のM&Aでは、まず株式譲渡で子会社化し、その後に必要に応じて吸収合併するという二段階の手順を取ることが多い。買収後にすぐ合併せず、一定期間は子会社のまま運営して文化や業務プロセスの違いを吸収してから統合に踏み切るほうが、現場の混乱を抑えられる。

会社分割 -- 事業を別法人に移す

吸収分割

吸収分割は、ある会社の事業の一部を既存の別会社に承継させる方法だ。分割会社の事業に関する権利義務の全部または一部が、包括的に承継会社に移転する。

事業譲渡と似ているが、決定的な違いがある。会社分割は包括承継なので、原則として個別の契約巻き直しが不要だ。従業員も労働契約承継法に基づいて自動的に移転する。この手続きの簡便さが、事業譲渡にはないメリットだ。

新設分割

新設分割は、事業の一部を切り出して新しい法人を設立する方法。分割会社が特定の事業部門を独立した子会社にしたい場合などに使われる。

中小企業のM&Aでは、新設分割と株式譲渡を組み合わせるスキームがある。まず売り手が売りたい事業を新設分割で別会社にし、その新設会社の株式を買い手に譲渡する。事業譲渡のように必要な事業だけを切り出せて、かつ株式譲渡のようにシンプルなクロージングができるハイブリッド型だ。

使われる場面

グループ内の事業再編が主な用途だ。持株会社体制への移行、不採算事業の切り離し、特定事業への外部資本の導入など、企業グループの組織設計を変えるときに使われる。中小企業単独のM&Aで会社分割が登場するのは、前述のハイブリッド型スキームの場合くらいだ。

株式交換と株式移転

株式交換

株式交換は、完全子会社化を目的とした手法だ。対象会社の株式を完全親会社に取得させ、対象会社の株主には親会社の株式を交付する。現金が不要なため、手元資金の少ない会社でも大型の子会社化が可能になる。

上場企業同士の経営統合でよく使われるスキームだが、中小企業M&Aではほぼ使われない。非上場株式を対価として受け取っても、換金性がないからだ。

株式移転

株式移転は、新たに設立する会社を完全親会社とし、既存の会社をその完全子会社にする手法だ。持株会社体制を構築する際に用いられる。

2つ以上の会社が共同で株式移転を行い、新設持株会社の下に並列でぶら下がる形を作れる。対等合併に近い関係を維持しつつ、経営統合のシナジーを追求できる。ただしこれも上場企業の大型再編で使われる手法であり、中小企業には縁が薄い。

スキーム選択の判断基準

中小企業M&Aでスキームを選ぶ際に検討すべきポイントを整理する。

譲渡範囲 -- 会社全体を譲渡するなら株式譲渡。事業の一部だけなら事業譲渡か会社分割。

簿外債務リスク -- 売り手の帳簿の信頼性に不安がある場合、買い手は事業譲渡を好む。引き継ぐ資産と負債を個別に選べるためだ。ただし表明保証と補償条項を手厚くすれば、株式譲渡でもリスクをある程度コントロールできる。

税務コスト -- 個人株主にとっては株式譲渡のほうが税率が低い(約20% vs 法人税率+配当課税)。買い手にとっては事業譲渡のほうがのれん償却のメリットがある。双方の税負担を総合的に比較して判断する。

手続きの負担 -- 株式譲渡が最もシンプル。事業譲渡は契約の巻き直しや従業員の転籍同意が必要で負担が大きい。合併・会社分割は債権者保護手続きが加わりさらに重い。

許認可の承継 -- 建設業、運送業、薬局、介護事業などは許認可が事業の生命線だ。許認可が会社に付与されているものであれば株式譲渡で自動承継できるが、事業譲渡では新規取得が必要になる場合がある。業種固有の規制を必ず確認する。

実務では、M&Aアドバイザーや顧問税理士と相談しながら、売り手・買い手双方にとって最適なスキームを決める。最初から一つの手法に決め打ちせず、複数のスキームを比較検討する姿勢が大切だ。

よくある質問

中小企業のM&Aで最も多いスキームは何ですか?
株式譲渡が最も多く使われています。オーナーが保有する株式を買い手に譲渡するだけで経営権が移転し、会社の法人格・契約・従業員の雇用関係がそのまま引き継がれるため、手続きがシンプルで迅速に完了できます。
事業譲渡と株式譲渡のどちらを選ぶべきですか?
会社全体を譲渡するなら株式譲渡、特定の事業だけを切り出して売りたいなら事業譲渡が基本です。また、簿外負債リスクを避けたい買い手は事業譲渡を好む傾向があります。税務面の影響も異なるため、税理士やM&Aアドバイザーに相談して判断してください。
合併と買収はどう使い分けるのですか?
中小企業M&Aで合併はまれです。合併は2社を法的に1つの法人にする手続きで、組織統合の負荷が大きいためです。一般的には株式譲渡で子会社化してから段階的に統合を進め、必要に応じて合併するという流れが多く採られています。
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