M&Aの正式名称と読み方
M&Aは英語のMergers and Acquisitionsを略した言葉で、読み方はエムアンドエー。Mergersが合併、Acquisitionsが買収を意味する。日本語では「合併・買収」と訳されることが多いが、実際にはもっと広い意味で使われている。
会社同士がくっつく。片方が相手を買い取る。事業の一部だけを切り出して売る。こうした企業間の経営権や事業の移転を伴う取引すべてを、ひとまとめにM&Aと呼んでいる。
ニュースで目にするのは数千億円規模の大型案件が中心だが、実態は違う。日本のM&A市場では、従業員数名から数十名規模の中小企業の取引が件数ベースで大半を占めている。後継者のいないオーナー社長が、第三者に会社を引き継いでもらう事業承継型M&Aが年々増え続けているためだ。
合併と買収はどう違うのか
合併と買収は混同されがちだが、仕組みがまったく異なる。
合併は、2つ以上の会社が1つの法人に統合される手続きだ。吸収合併では一方の会社が存続し、もう一方が消滅する。新設合併では両社とも消滅し、新しい法人が誕生する。いずれの場合も、消滅する会社の権利義務はすべて存続会社もしくは新設会社に承継される。
買収は、ある会社が別の会社の株式や事業を取得する手続きを指す。株式を過半数以上取得すれば経営権を握れる。買収された側の法人格はそのまま残るのが合併との大きな違いだ。
中小企業のM&Aでは合併はまれで、ほとんどが買収に該当する。オーナー社長が保有する株式を買い手に譲渡する株式譲渡が最も多く、次いで事業の一部を切り出して売る事業譲渡が続く。
M&Aの3つの目的
企業がM&Aに踏み切る理由は、大きく分けて3つある。
事業拡大
自力で新規事業を立ち上げるには時間もコストもかかる。既存の顧客基盤、技術、人材、許認可をまとめて手に入れられるのがM&Aの強みだ。たとえば、ある地域で強い営業網を持つ会社を買収すれば、自社の商品を一気にその地域へ展開できる。ゼロから営業所を構え、人を採用し、信頼関係を築く何年分もの時間を飛ばせる。
IT業界では、エンジニアの採用難が深刻化しているため、技術者ごと会社を買うアクハイヤー型のM&Aも定着してきた。
事業承継
日本の経営者の平均年齢は60.7歳に達し、34年連続で過去最高を更新した。帝国データバンクの2025年調査によると、後継者不在率は50.1%。中小企業に限れば51.2%、小規模企業では57.3%まで上がる。
かつて事業承継といえば子どもや親族に継がせるのが主流だった。だが少子化や価値観の多様化で、親族内承継は減少傾向にある。代わりに増えているのが、第三者への株式譲渡によるM&A型の承継だ。2024年度の事業承継・引継ぎ支援センターにおける第三者承継の成約件数は2,132件で、過去最高を記録した。
会社を廃業すれば従業員は職を失い、取引先との関係も途切れる。M&Aで買い手が見つかれば、雇用も取引も維持でき、オーナーは譲渡対価を老後資金に充てられる。
投資・経営戦略
不採算事業を売却して中核事業に集中する選択と集中型のM&Aもある。東京証券取引所が上場企業に資本コストや株価を意識した経営を求めるようになり、事業ポートフォリオの組み替えを目的としたM&Aが増えた。
ファンドによる買収も活発だ。PEファンドが経営改善の余地がある企業を買収し、3〜7年で企業価値を高めて売却するモデルは、日本市場でも定着している。
なぜ今M&Aが増えているのか
M&A件数の増加には、いくつかの構造的な要因が重なっている。
1つ目は経営者の高齢化だ。日本の社長の平均年齢は60.7歳で、34年連続の過去最高更新。団塊世代の経営者が一斉に引退時期を迎えている。中小企業庁の試算では、2025年までに70歳を超える中小企業経営者が約245万人に達し、そのうち約127万人が後継者未定の状態にある。このまま放置すれば650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われるとされ、M&Aによる第三者承継の社会的な重要性が一気に高まった。
2つ目は企業の成長戦略の変化だ。国内市場の縮小が見込まれるなか、オーガニック成長だけでは限界がある。人材の獲得、新規エリアへの進出、技術の取り込みを短期間で実現する手段として、M&Aを選ぶ企業が増えた。
3つ目はインフラの整備だ。M&Aマッチングプラットフォームの登場で、これまで仲介会社を介さなければ出会えなかった売り手と買い手がオンライン上で直接つながれるようになった。数百万円規模の小さな案件でも取引が成立しやすくなり、スモールM&A市場を押し広げている。
4つ目は東京証券取引所の改革だ。2023年以降、上場企業にPBR1倍割れの改善や資本コストを意識した経営が求められるようになった。低収益の子会社やノンコア事業の売却が加速し、これが中小企業の買い手・売り手双方の案件を増やしている。
M&Aの主な種類を簡単に整理する
M&Aにはさまざまな手法があるが、中小企業で実際に使われるのは限られている。
株式譲渡 -- オーナーが保有する株式を買い手に売る方法。会社の法人格、契約、許認可、従業員の雇用関係がそのまま引き継がれるため、手続きが比較的シンプル。中小企業M&Aの大半がこの方法で行われている。
事業譲渡 -- 会社の事業の全部または一部を売る方法。法人格は移転しない。必要な資産・契約だけを選んで引き継げるため、買い手が欲しい部分だけを買えるメリットがある。一方で、契約の巻き直しや従業員の転籍手続きが必要になるため、株式譲渡より手間がかかる。
合併 -- 2つの会社を1つに統合する方法。中小企業では利用頻度が低い。
会社分割 -- 事業を分割して別会社に承継させる方法。グループ内再編で使われることが多い。
このほか株式交換や株式移転といった手法もあるが、上場企業やグループ再編で使われるケースがほとんどで、中小企業M&Aではめったに登場しない。
日本のM&A市場はどれくらいの規模なのか
2025年の日本企業のM&A件数は5,115件。前年の4,700件から8.8%増え、2年連続で過去最多を更新した。取引金額も35.7兆円に達し、件数・金額ともに過去最高という結果になった。
内訳を見ると、国内企業同士のIN-IN案件が4,086件で10.4%増。海外企業を買収するIN-OUT案件は657件だったが、金額は18.2兆円と前年比87.2%増で、大型案件が相次いだ。
この増加傾向は一過性のものではない。中小企業庁の試算では、国内中小企業M&Aの潜在市場規模は約13.5兆円で、2035年まで件数が増え続ける見込みだ。背景にあるのは、経営者の高齢化、後継者不足、そして東証の市場改革による事業再編圧力の3つ。
10年前と比べると、M&Aに対するネガティブなイメージはかなり薄れた。かつては「身売り」「乗っ取り」と捉える経営者が多かったが、今では事業を守る選択肢として前向きに検討するオーナーが増えている。
中小企業M&Aの実態
テレビや新聞で取り上げられるM&Aは、数百億円から数兆円規模の大型案件が中心だ。だが件数ベースで圧倒的に多いのは、売上数千万円から数億円規模の中小企業M&A。いわゆるスモールM&Aと呼ばれる領域だ。
中小企業M&Aの典型的なパターンは、60代後半から70代の経営者が後継者不在のまま引退を考え始め、M&A仲介会社やマッチングプラットフォームを通じて買い手を探すというものだ。
売却価格の目安は、純資産に営業利益の2〜5年分を加えた金額が一般的。年間営業利益3,000万円の会社であれば、数千万円から1億円台で取引されるイメージだ。ただし業種や成長性、顧客基盤の安定性によって大きく変動する。
買い手側も変化している。従来は同業の大手企業が中心だったが、近年はサラリーマンが個人でスモールM&Aに挑戦するケースも出てきた。300万円から1,000万円程度でマイクロ企業を買い取り、自ら経営者になるという動きだ。M&Aマッチングプラットフォームの登場がこの流れを加速させている。
M&Aで使われる基本用語
M&Aの記事や資料を読み進めるうえで、最低限知っておきたい用語をまとめておく。
DD(デューデリジェンス) -- 買い手が対象会社の財務、法務、税務、事業内容を詳細に調査する手続き。M&Aの成否を左右する最重要プロセスの一つ。
LOI(意向表明書) -- 買い手が買収の意思と基本条件を売り手に伝える書面。法的拘束力を持たないのが一般的だが、独占交渉権には拘束力を持たせることが多い。
PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション) -- 買収後の経営統合プロセス。組織、人事制度、業務フロー、ITシステムの統合を含む。M&Aの失敗原因として最も多く指摘される領域でもある。
ノンネームシート -- 社名を伏せたまま業種、地域、売上規模などの概要を記載した匿名資料。買い手候補への初期的な打診に使われる。
バリュエーション -- 企業価値の算定。DCF法、類似会社比較法、純資産法などの手法がある。中小企業M&Aでは、時価純資産に営業権(のれん)を加算する方法が多い。
クロージング -- M&A取引の最終実行。株式の引渡しと対価の支払いが行われ、経営権が正式に移転する。
M&Aを検討するなら知っておくべきこと
M&Aは契約書にサインして終わりではない。買い手は、取得した会社や事業を自社とどう統合するか、従業員の処遇をどうするか、顧客との関係をどう維持するかを考え抜く必要がある。売り手も、従業員と取引先を守るために最適な相手を選ばなければならない。
M&Aの全体像を掴んだうえで、次に知るべきは具体的な流れと手順だ。検討開始からクロージングまでどのようなステップがあるのか、それぞれの段階で何が起きるのかを理解しておくことが、後悔のないM&Aにつながる。