0円で事業が買える理由
M&Aで事業を買うには数百万円、数千万円が必要。そう考える人が多いでしょう。しかし実際には、譲渡価格0円や1円という案件が存在します。
なぜタダ同然で事業を手放す経営者がいるのか。理由は単純です。事業を閉じるほうがお金がかかるからです。
店舗の原状回復費用、設備の撤去費用、従業員への退職金、取引先への違約金。廃業にかかるコストは業種によっては数百万円に達します。後継者がおらず、自分で続ける体力もない経営者にとって、事業をタダで引き継いでくれる人が現れれば、廃業コストがゼロになる。売り手にとっても合理的な判断なのです。
2025年時点で70歳以上の経営者は約245万人。このうち約127万人が後継者未定とされており、事業承継の受け皿がないまま廃業に向かう企業が毎年数万社にのぼります。
0円譲渡が成立する3つのパターン
0円や1円で事業が譲渡されるケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。
後継者不在で廃業を検討しているケース。最も多いのがこのパターンです。経営者の高齢化で事業を続けられないが、従業員の雇用や取引先との関係を守りたい。金銭的な対価よりも「事業を続けてくれること」を優先する経営者は少なくない。
赤字が続いている事業。数期連続で赤字の事業は企業価値がほぼゼロと評価される。それでも顧客リスト、技術、許認可、ブランドなど個別に価値がある資産を含んでいることがある。赤字の原因がコスト構造にあるなら、買い手が経営を改善すれば黒字化できる可能性は十分あります。
事業の一部を切り離したいケース。複数事業を展開する企業が、不採算部門を切り離すために0円で譲渡する。本業に集中するための経営判断であり、買い手にとってはニッチな事業を低コストで手に入れるチャンスになります。
実際にBATONZでは譲渡希望金額100万円未満の案件が3,000件以上掲載されています。0円や1円の案件もその中に含まれている。
0円でも発生する費用
「0円で買える」と聞くと費用がゼロに思えますが、譲渡価格以外にかかるコストがあります。ここを見落とすと予算オーバーになる。
登記費用。株式譲渡では不要なケースもありますが、不動産や許認可を含む事業譲渡では登録免許税が発生します。不動産の移転登記は固定資産税評価額の2%が目安。
仲介手数料やプラットフォーム手数料。BATONZの場合、買い手の成約手数料は成約価格の5%で、最低手数料は25万円。0円譲渡でも25万円は発生する。TRANBI等のプラットフォームも同様に最低手数料が設定されています。
デューデリジェンス費用。税理士や弁護士に簡易DDを依頼すると10万から30万円。0円案件だからといってDDを省略するのは危険です。むしろ0円になっている理由を深掘りするためにこそ、DDが必要です。
在庫や設備の引き取り費用。事業譲渡で在庫を引き継ぐ場合、在庫代金は別途発生することがある。設備のメンテナンス費用や修繕費も初期コストとして計上すべきです。
運転資金。引き継ぎ直後は売上が不安定になることが多い。最低でも3か月分の運転資金を手元に用意しておくべきです。
合計すると、0円譲渡でも50万から200万円程度の初期費用がかかるケースが大半です。
簿外債務と隠れたリスク
0円案件で最も警戒すべきは簿外債務です。
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない負債のこと。未払い残業代、退職給付引当金の不足、リース契約の残債、税務調査による追徴税額など、帳簿上は見えないが法的には支払い義務がある債務です。
0円で譲渡される事業は、業績が悪化しているケースが多い。業績悪化の原因が単なる売上減少ならまだしも、粉飾や経理の杜撰さが原因だと、帳簿に載っていない負債が芋づる式に出てくることがある。
株式譲渡で会社ごと買い取ると、簿外債務もすべて引き継ぐことになります。これを避けるには事業譲渡のスキームを選択する方が安全です。事業譲渡では、引き継ぐ資産と負債を一つ一つ指定できるため、不要な負債を排除できます。
DDで確認すべきポイントは以下の通りです。
- 未払い残業代はないか
- 社会保険料の滞納はないか
- 訴訟や紛争を抱えていないか
- リース契約や保証債務の残高
- 税務申告に問題はないか
税務上の注意点
0円で事業を譲り受けても、税務上は「タダ」では済みません。
個人から個人への無償譲渡では、譲受人に贈与税がかかります。譲り受けた資産の時価が年間110万円の基礎控除を超える場合、超過分に対して贈与税が発生する。事業用資産の時価が1,000万円あれば、数百万円の贈与税が課されることもあります。
個人から法人への無償譲渡では、譲渡人にみなし譲渡所得税がかかる。時価5,000万円の資産を0円で法人に譲渡した場合、譲渡者は5,000万円で売却したものとみなされ、20.315%の所得税が課される。譲り受けた法人側には受贈益として法人税が発生します。
法人から個人への無償譲渡では、法人側は寄付金として損金算入の限度額が制限され、個人側は一時所得として所得税がかかる。
つまり、0円で譲り受けても事業の時価次第で相当な税負担が発生する可能性がある。M&Aの契約前に必ず税理士に相談し、税額のシミュレーションを行ってください。
100万円以下の案件の探し方
0円にこだわらなくても、100万円以下で買える案件は数多く存在します。
マッチングプラットフォーム。BATONZは譲渡価格での絞り込み検索が可能で、100万円未満の案件だけを抽出できる。TRANBIも同様に予算0円から検索できます。買い手登録は無料なので、まず登録して案件を見る習慣をつけるのがよい。
事業承継・引継ぎ支援センター。全国47都道府県に設置された公的な相談窓口です。令和6年度の相談者数は23,000者を超え、第三者承継の成約件数は2,132件と過去最多を更新しました。相談は無料で、後継者不在の案件を紹介してもらえます。
後継者人材バンク。事業承継・引継ぎ支援センターが運営する、個人の買い手と後継者不在企業をつなぐ仕組みです。令和6年度の成約件数は106件。件数は少ないものの、公的機関のマッチングなので仲介手数料がかからない案件もある。
100万円以下の案件で多い業種は、Webサイト、小規模EC、個人経営の店舗、フランチャイズの1店舗譲渡などです。
0円案件を成功させるために
0円や低価格の案件は、裏を返せば何かしらの課題を抱えている。その課題を見極め、自分の力で解決できるかどうかが成否を分けます。
やるべきことは明確です。DDを省略しない。税理士に税務シミュレーションを依頼する。事業譲渡のスキームで簿外債務リスクを遮断する。引き継ぎ後の運転資金を確保する。
0円だからといって安易に飛びつくのは危険ですが、0円だからと敬遠するのももったいない。廃業コストの回避が売り手の動機であれば、買い手にとっては低コストで事業基盤を手に入れる好機です。冷静にリスクとリターンを見極めて判断してください。