中小企業経営者の7割が背負う連帯保証
中小企業の資金調達には、経営者個人の連帯保証がほぼ必ずついてくる。金融庁の調査でも、中小企業向け融資の相当数に経営者保証が付されている実態が明らかになっている。
経営者保証は平時には目立たない。毎月の返済が順調に進んでいれば、保証人であることを忘れている経営者も少なくないだろう。しかし事業承継の局面では、この保証が最大の障壁になる。
「借金と保証がある会社を息子に継がせたくない」 「M&Aで売りたいが、保証が外れるのか不安だ」
こうした悩みを持つ経営者は多い。事業承継における借入金と経営者保証の扱いを、具体的な解決策とともに整理する。
事業承継で経営者保証が問題になる理由
後継者が保証を引き受けたがらない
事業承継で経営権が移る場合、金融機関は新しい経営者に対して連帯保証を求めてくる。先代が数千万円から数億円の保証を負っていた場合、後継者にも同等の保証が要求される。
30代や40代の後継者にとって、数億円の連帯保証は重い。事業がうまくいかなければ個人資産をすべて失うリスクがある。この恐怖が、親族内承継を断る最大の理由になっているケースは多い。
二重保証の問題
先代の保証が解除されないまま、後継者にも保証が求められる。先代と後継者の二人が同時に連帯保証人になっている状態だ。これを「二重保証」と呼ぶ。
先代はすでに経営権を手放しているのに、保証だけが残る。経営に関与できないのにリスクだけを負い続ける不合理な状態だ。後継者にとっても、先代の保証が残っていること自体がプレッシャーになる。
経営者保証ガイドラインの活用
ガイドラインの概要
「経営者保証に関するガイドライン」は、2014年2月に適用が開始された自主的なルールだ。法的拘束力はないが、金融庁が金融機関に対して遵守を強く求めており、実務上は大きな影響力を持っている。
2019年12月には、事業承継に焦点を当てた「特則」が公表された。この特則の最大のポイントは、前経営者と後継者の二重保証を原則禁止としたことだ。
保証を外すための3要件
ガイドラインでは、経営者保証を不要とするための3つの要件を示している。
一つ目は、法人と経営者の資産の明確な分離。会社の預金と社長個人の預金が混在していたり、社長が会社の不動産を私的に使っていたりすると、この要件を満たせない。役員貸付金や社長への仮払金が多額に残っている場合も同様だ。
二つ目は、財務基盤の強化。具体的には、法人のみの資産・収益力で返済が可能であることを示す必要がある。債務超過の会社や、赤字が続いている会社では、この要件のクリアが難しい。
三つ目は、金融機関への適時適切な情報開示。決算書を期限通りに提出するのは当然として、月次の試算表の提出、資金繰り表の共有、事業計画の説明など、経営の透明性を高める取り組みが求められる。
この3つを同時に満たすのは簡単ではない。特に中小企業では、法人と経営者個人の資産分離が不十分なケースが多い。承継を見据えて数年前から改善に取り組む必要がある。
事業承継時に保証を外す実務的な進め方
金融機関への相談は早めに
承継の1年から2年前には、メインバンクに事業承継の意向を伝え、経営者保証の取り扱いについて相談を始めるべきだ。直前に持ち込んでも金融機関は対応しにくい。
金融機関の担当者にとっても、保証解除は判断が難しい案件だ。稟議を通すためには時間がかかる。余裕を持ったスケジュールを組んでほしい。
経営者保証コーディネーターの活用
事業承継・引継ぎ支援センターには「経営者保証コーディネーター」が配置されている。経営者保証ガイドラインの要件をどの程度満たしているかを、「事業承継時判断材料チェックシート」を使って評価してくれる。
コーディネーターの確認を受けた場合、信用保証協会の保証料が軽減される。通常0.45%から1.90%の保証料が、0.20%から1.15%に下がる。費用面のメリットも大きいため、活用しない手はない。
2023年度には事業承継・引継ぎ支援センター全体で23,722件の相談に対応しており、経営者保証に関する相談も年々増えている。
具体的な交渉のステップ
まず、自社がガイドラインの3要件をどの程度満たしているかを棚卸しする。役員貸付金があれば解消し、法人と個人の資産を明確に分離する。決算書を整え、借入金の返済が順調であることを示す資料を用意する。
次に、金融機関に対して正式に保証解除を申し入れる。口頭ではなく、書面で行うことを推奨する。ガイドラインを根拠に、3要件を満たしていることを具体的な数字とともに示す。
金融機関の回答が「保証を外せない」だった場合でも、理由を書面で開示するようガイドラインは求めている。理由がわかれば、何を改善すれば保証解除に近づくかが明確になる。
事業承継の類型別に見る借入金の扱い
親族内承継の場合
株式の移転に伴い、法人の借入金はそのまま法人に残る。法人の債務が後継者個人に移転するわけではない。問題になるのは経営者保証だ。
金融機関は通常、新経営者に対して連帯保証を求めてくる。先代の保証を解除し、後継者の保証に切り替える形だ。ガイドラインの特則では、前経営者の保証を解除して後継者の保証に切り替えることが基本とされている。
先代が借入金の返済を個人資産で保証する「人的保証」の代わりに、法人の不動産を担保に入れる「物的担保」への切り替えを提案するのも有効な手段だ。後継者の個人保証を回避できる可能性がある。
従業員承継(MBO)の場合
従業員が株式を買い取るMBOでは、買取資金の調達が最大の課題になる。後継者個人が金融機関から融資を受ける場合、さらに保証が上乗せされるリスクがある。
MBO専用の融資制度を活用する方法がある。日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、事業承継を目的とした設備資金・運転資金の融資制度だ。経営者保証を求めない融資の選択肢を事前に調べておくべきだろう。
M&Aによる第三者承継の場合
M&Aで株式を第三者に売却する場合、法人の借入金は買い手が引き継ぐ。借入金が大きい場合は、企業価値の評価から借入金額を差し引いた金額が実質的な売却対価になる。
売り手経営者の連帯保証は、クロージング時に解除するのが原則だ。M&Aの最終契約書には、買い手の責任で保証を解除する旨の条項を盛り込むのが一般的になっている。
実務上は、クロージングまでに金融機関との保証切り替え交渉を完了させるケースと、クロージング後に一定期間内に保証を解除するケースがある。売り手としては、契約書に保証解除の期限と、解除できなかった場合のペナルティを明記してもらうのが安全だ。
なお、会社に多額の負債があるからといってM&Aが不可能になるわけではない。買い手は企業価値から負債を差し引いて判断するため、事業自体に魅力があれば買い手は見つかる。負債があるから売れないと諦める前に、M&A仲介会社に相談することを勧める。
経営者保証改革の最新動向
金融庁は「経営者保証改革プログラム」を策定し、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させている。スタートアップ・創業、民間金融機関による融資、信用保証付融資、中小企業のガバナンスの4分野に重点的に取り組んでいる。
信用保証協会による保証制度でも、経営者保証を不要とする新たな保証メニューが拡充されている。東京信用保証協会をはじめ、各地の信用保証協会が経営者保証なしの保証制度を積極的に提供するようになった。
こうした制度変更は、事業承継を検討する経営者にとって追い風だ。数年前と比べて、経営者保証を外すハードルは確実に下がっている。
保証を外すために今日からやるべきこと
経営者保証の解除は、事業承継の直前になって慌てて取り組むものではない。承継の2年から3年前から準備を始めるのが現実的だ。
具体的には、役員貸付金の解消、法人と個人の資産の明確な分離、月次決算の体制整備、金融機関への定期的な経営報告。これらを地道に積み上げることで、ガイドラインの3要件に近づいていく。
事業承継・引継ぎ支援センターへの相談は無料だ。経営者保証コーディネーターに自社の現状を評価してもらい、何が不足しているかを把握するところから始めてほしい。保証を理由に承継を諦めるのは、あまりにもったいない。